新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の発症者数が全国で100人を切り、2020年6月1日からは、様々な経済活動が再開される見通しです。
今後、活動再開とともに懸念されるのが感染の再拡大です。
感染拡大をいち早く見破るためにはウィルス検査が重要ですが、今回はそのあたりのお話をします。

新型コロナウィルスの検査には以下の方法があります。
① PCR検査:鼻咽頭ぬぐい液、喀痰などを使用
② 抗原検査:鼻咽頭ぬぐい液を使用
③ 抗体検査:血液を使用

それぞれの検査の利点と欠点を挙げます。
① PCR検査:利点:感度がまずまず高い。おそらく90%以上の確率で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)を診断できる。それでも10%以下ではあるが、見落としてしまうこともある。また、検査施行時期によっては感染を見破れず、その時期でも他者への感染は起きている。
欠点:結果が出るまで数時間という時間を要する。また、民間検査機関に依頼した場合、結果報告まで一日以上を要する。検査に手間がかかり、検査数に限界がある。(望んだ人全員に検査を行う事は現実的には不可能である)
② 抗原検査:利点:検査が簡便にできる。結果が数十分以内に出るなど早い。そのため、救急外来などでの現場での測定も可能となる。(インフルエンザの迅速診断を思い浮かべてください)
欠点:感度が低い。2020年5月時点での国内臨床検体を用いた、RT-PCR検査と抗原検査の比較では、陰性一致率98%(44/45)、陽性一致率37%(10/27)。陽性者を見破る事には使えても、陰性者を確定するために使う事はこの精度では現実的に出来ない。
③ 抗体検査:利点:過去の感染を正確に判定できる。疫学的調査など、世の中の動向を調べるのには最適です。
欠点:新型コロナウィルス感染が成立してからある程度の日数がたたないと陽性にならない。そのため現在発症しているか否かの判定に使えない。血液検査であるため、医療機関などでの採血が必要となる。検査結果が出るまで数日の時間を要する。

現在、当クリニックでも患者様からの問い合わせで多いものが『新型コロナウィルスの検査はどうなっているのか?』『自分が新型コロナウィルスかどうか不安な時には検査が受けられるのか?』というものです。
結論から言うと、新型コロナウィルス感染症の検査は、今まで通り、症例を限定してのPCR検査になると思われます。
PCR検査は、熟練した検査技師でなければ行えないうえ、手間がかかります。いわば手作りの製品をコツコツ作っていく様なものなのです。PCR検査は、生命に関わりうる重症者、感染の可能性の高い濃厚接触者、重度な基礎疾患を持つ人などが優先されるため、一般的な感冒症状の方にまで検査機会を拡大する余裕がないのが現状です。
その欠点を補うものとして、自動化されたPCR検査装置が開発されています。検査キットがカートリッジに入れられていて、それを機械に入れるだけで検査ができるという優れものです。熟練の技術が不要で手間もかからず、検査時間も大幅に短縮可能。良い事ずくめです。しかし、これらのPCR検査装置は輸入となるため、数が圧倒的に足りないのです。どんなに優れた新兵器でも、最前線に行き渡らなければ状況を変える事は出来ません。現実的には、今後しばらくの間はPCR検査は限定的にしか行えない状況は変わらないと思われます。

そういった面では、大きな期待が寄せられるのが、短時間で簡便に行う事のできる抗原検査です。
しかし、現時点での抗原検査とPCR検査の陽性一致率は僅かに37%。これでは、新型コロナウィルス感染症の陽性判定には使えても、陰性判定には使えません。検査をして、自分が新型コロナウィルス感染症ではない事を知って安心するための検査としては不適格なのです。
具体的に例を示します。
発熱が続き、感冒症状や味覚異常があり、新型コロナウィルス感染症が疑われる患者様に抗原検査を行ったとします。
抗原検査が陽性であれば、そのまま新型コロナウィルス感染症の診断が確定します。その場合は重症度に応じて、入院や施設への隔離となります。この状況はシンプルです。
では、抗原検査が陰性の場合はどうでしょうか。
抗原検査が陰性であっても、それが新型コロナウィルスに感染していない事の証明にはなりません。なぜならば陽性一致率37%。つまり、実際に新型コロナウィルスに感染している人の実に63%を見落としていると思われるのです。そのため、陰性であることを確定するためには、抗原検査の後にさらにPCR検査を行う必要があります。これでは、抗原検査の最大の利点である簡便さが活かせません。それらの事情もあり陰性証明には使えないのです。
今後、新型コロナウィルスの抗原検査の精度=陽性一致率がインフルエンザ抗原検査並みの90%程度まで高まれば、ある程度陰性証明に使えるようになるかもしれませんが、まだまだ先の話になりそうです。

陰性証明という事に関していえば、PCR検査でも問題点はあります。
新型コロナウィルスの感染者が出て、周囲の人を全員をPCR検査が可能だったとします。
例えば、周囲の人間を100人PCRで検査して20人が陽性、残りの80人が陰性だったとします。陽性に出た20人は、ほぼ間違いなく本当に新型コロナウィルスに感染していると考えられます。ここまでは問題ありません。
しかし、陰性と出た残りの80人の中には、PCR検査の精度が90%であった場合、2人程度の偽陰性、つまり実際は新型コロナウィルスに感染しているのにPCR検査で陰性と出た人が含まれているのです。
これが100人の職場と考えると、PCR検査で陰性である事を過信するのはリスクがあるとご理解いただけると思います。

抗体検査についても、検査の実際と世間的なイメージには差異があります。
抗体があれば新型コロナウィルスに感染しないという話が独り歩きしています。しかし、抗体の数値による感染阻止、発症阻止の割合なども一切判っていない現時点では、抗体検査による感染からの安全性は担保されていないのが現実です。
また、一本鎖RNAウィルスという変異しやすい構造を持つ新型コロナウィルスに対しては、抗体の有効期間が実質的にどの程度なのかの問題もあります。いずれにしても、抗体検査は疫学的検査=感染の実態把握の意義は大きいですが、個人の安全性を示す指標とできるかは今後の研究結果を待つ必要があります。

他にもPCR検査にしても抗原検査にしても、検査を行う医療者の安全確保という問題があります。鼻咽頭のぬぐい液採取は、施行する際に飛沫が飛散する可能性が高い検査です。そのため完全防護下での検体採取が必要となります。しかし、これは大変な手間がかかりますし、検査時に他の患者様の安全を確保する体制を整える事が重要となります。それに、そもそも完全防護をしたくても、多くの医療機関ではそのための装備も手に入りません。N95マスクも少なければ、防護着に至っては入手できずにビニールの雨合羽を代用しているのが現状です。
そのため、現在はPCR検査や抗原検査を、医療機関で採取しなくてはいけない鼻咽頭ぬぐい液に代わって、自宅で採取が可能な糞便や唾液を使っての検査に変えようという研究も行われています。しかし、現時点では検査精度が低く、実用にはほど遠い印象です。今後の研究開発に期待したいと思います。

新型コロナウィルス感染症の流行により、医療機関の診察の在り方も大きな変革を余儀なくされています。
通常の診察も状況によっては遠隔診療(リモート診療というべきか?)の導入が急務となっています。
ましてや新型コロナウィルス感染症を含む感冒症状や発熱の患者様の診察には、リモート診療の導入が重要と考えます。
唾液などでのウィルス検査が可能となれば、検査時の医療関係者への感染リスクを減らすのみならず、リモート診療と併用すれば来院に伴い接触する人への感染リスク(公共交通機関や徒歩移動の際の感染リスク)を減らすことも可能になると考えます。
その際には、医療機関の指示を受けて検体を輸送する新たなサービスが出現するかもしれません。
“UBER EATS”ならぬ“UBER INSPECTS”のロゴを付けた医療検体輸送用のバックを携えたバイクが町中を走る光景が見られる事になるかもしれないな、などと勝手に空想しています。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設