誤解を生みやすい内容ですが、少しでも情報は多い方が良いかと思い掲載しております。『放射線障害に効く漢方薬』をご紹介しているものではございませんので、誤解の無いようお読みいただければと思います。

福島第一原子力発電所の事故以来、放射線障害に対して有効な治療方法についての質問を多く受けます。日常生活における注意点などは以前コラムで(※1)書いたのですが、放射線被ばくに対する漢方治療について興味深いものがあったので紹介させて頂きます。

※1コラム「原発事故と放射線の話」

 高度の放射線被爆に対する西洋医学的治療についての文献は数多く存在しますが、いずれの治療も体への負担が比較的大きなものであり(例えば radical scavenger による治療など)、現在の東京での状況の様な『ただちに生命・健康に影響があるレベルではない放射線』に対して適切な西洋医学的治療法はほとんど無いのが実情です。

 では、何か体に無害で有効な治療手段はないのでしょうか?

十全大補湯

1980年代の漢方薬の研究で興味深いものがありました。48番・十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)などと放射線障害についての一連の研究です(主に大阪府立放射線中央研究所による)。これらによると以下の事実が判明したとの事です。

  • 48番・十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)41番・補中益気湯(ホチュウエッキトウ)9番・小柴胡湯(ショウサイコトウ)のいずれかをマウスに経口投与すると、亜致死線量の放射線被爆による造血機能障害を防護し、生存率が増大する。
  • 十全大補湯については、有効成分の解析が行われており、構成生薬のうち茯苓(ブクリョウ)芍薬(ショクヤク)桂枝(ケイシ)に放射線障害防護効果を認めた。
  • マウスでの放射線被爆後の抗ウィルス免疫能賦活加作用の研究では、十全大補湯はマウスの放射線被爆による免疫障害からの回復促進や加齢による慢性的免疫機能の低下にも一様に有効なのに対して、小柴胡湯は障害からの回復を著しく促進した。

 上記の文献を参考にすると、放射線障害の予防という観点からは十全大補湯が最も有効であるが、放射線障害を生じた部位の修復には小柴胡湯が有効であり、同じ放射線障害に対する漢方治療でも“使い分け”が大切であると考えます。

 放射線障害予防という観点で最も有効な十全大補湯ですが、漢方薬の中でも比較的穏やかな生薬から構成されており、長期間内服しても安心な薬です。十全大補湯は、血を補う『四物湯(シモツトウ)』と、気を補い胃腸を強くする作用のある『四君子湯(シクンシトウ)』が内包されているため“温補気血”の効果を持ちます。長く内服する事により慢性疲労の回復や美肌効果、貧血の改善、冷え症の改善、胃腸の調子の改善、気力の充実などが期待できます。放射能障害を心配されている方は、放射線防護と健康増進を兼ねて十全大補湯を飲んでも良いかもしれません。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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