花粉症は治る?

花粉症は一度発症すると治らないと言われています。そのため、一度スギ花粉症を発症すると毎年花粉症の症状に悩まされます。これに対して抗ヒスタミン剤の内服などの対症療法を行う訳ですが、対症療法によって花粉症の症状を改善する事は出来ても花粉症そのものを完治する事はできません。

では花粉症を完治する方法はないのでしょうか?

実は一つだけ方法があります。“減感作療法”という方法で花粉症を完治、つまり出なくする事ができます。
しかし、この減感作療法はあまり行われていません。何故ならば減感作療法は非常に根気よく続ける必要があり、途中で脱落する人が多いのです。減感作療法はアレルゲンを最初はごく微量から注射で患者さんに投与します。そして徐々に注射で投与するアレルゲンの量を増やして行きます。注射の頻度は週一回程度、治療効果が出始めるのは半年程度を要し、治療が完了するには数年間かかります。注射を中断すると治療効果は消失してしまいます。また減感作療法によって完治するのは治療を行った特定のアレルゲンに限ります。

・減感作療法の実例 - スギ花粉症の人がスギに対する減感作療法を行う場合-
減感作療法が成功すれば半永久的にスギ花粉によるアレルギー反応は起きないという圧倒的な利点はあるのですが、①スギ花粉のアレルゲンの注射を週一回の割合で3~5年間注射をし続けなければならない。②注射を中断する(サボる)と効果がなくなる。状況によっては一からやり直しになる。③数年かけて減感作療法を成功させても有効なのはスギに対してのみである。つまりヒノキやブタクサ、ハウスダストなど他のアレルゲンによるアレルギー症状は全く変わらないなどの側面があります。また、④少量とは言えアレルゲンを体内に注射で投与するため、アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー症状が起きる可能性などのリスクがある。そのため喘息の重積発作の既往があるなどの場合は慎重に行わないと危険がある。⑤リスクの管理や保険点数の低さなど様々な理由で減感作療法を行う医療機関が限られる。などの問題点もあります。

非特異的減感作療法

それに対して“非特異的減感作療法”とは、期間は限定されますが、すべてのアレルゲンに対してアレルギー反応を抑制してくれる治療法です。非特異的減感作療法も減感作療法と同様に注射で行います。よく使われる注射薬剤としてはヒスタグロビン、金製剤、MSアンチゲン、マクロライドなどがありますが、当クリニックではヒスタグロビンによる非特異的減感作療法を行っています。

ヒスタグロビン注射による非特異的減感作療法は、週1~2回程度の頻度で6回行います。これにより約3~4ヶ月間、アレルギー反応を有意に抑制する事が期待できます。

ヒスタグロビンとは

ヒスタグロビンは商品名であり、一般名はヒスタミン加人免疫グロブリン製剤と言います。ヒスタグロビン注射は献血などで得られた人(ヒト)血液から免疫グロブリンを抽出し、それにヒスタミン二塩酸塩を加え製剤化したものです。化学合成によらないナチュラルな注射薬ですが、人血液由来の成分を使用しているため、特定生物由来製品(生物製剤)という薬のカテゴリーに属します。このカテゴリーに属すものは、他にはプラセンタ注射などがあります。ヒスタグロビン注射などの生物製剤はメーカーの責任で含有が予想されるウィルスに対する検査など万全の安全性への配慮がなされています。しかし想定し得ない状況が生じた場合を考慮して、医療機関で注射の製剤番号の控えを20年間保存するなど通常の注射製剤に対しては行っていない徹底した管理を行っています。

副作用について

ヒスタグロビン注射は化学合成によらないものであるため、比較的大きな副作用は生じにくいのですが、グロブリンである以上は理論的にはショックなどを生じる可能性はゼロではありません。もっとも(特異的)減感作療法のショックのリスクに比べれば比較にならない程稀です。(実際に過去にヒスタグロビンでショック状態など重篤な状況になった事例は見たことも聞いたこともないのですが)。そのため初回の注射時は念のためしばらく経過観察をする必要があります。また免疫機構に影響を及ぼしますので、健常人がヒスタグロビン注射を行う分には全く問題はないのですが、免疫不全症の患者や癌などの治療で免疫抑制剤を投与されている方、ステロイドホルモンの長期・大量投与を受けている方、特に過敏性の強い方には慎重に投与を行う必要があります。また、喘息の患者で重積発作など生命のリスクを有する症状がある方、著しい衰弱状態にある方、以前ヒスタグロビン注射でアレルギー症状が出現したことがある方は原則としてヒスタグロビン注射は行えません。その他、添付文書によるとIgA欠損症の患者、肝障害の既往のある患者、溶血性・失血性貧血の患者にも慎重に投与する必要があるとされています。

その他の注意点

副作用以外で注意しなくてはいけない点としては次の事項があります。ヒスタグロビン注射は非経口生ワクチン(麻疹・風疹・おたふくかぜ・水痘ワクチン)の効果獲得に対しても影響を与える可能性があります。そのためワクチン接種からはヒスタグロビン注射開始までは最低2週間空ける事が望まれます。ヒスタグロビン注射を行ってから生ワクチンの接種を行う場合は最低3~4ヶ月空ける必要がありますので、ワクチンを予定されている方は計画的に行う必要があります。不活化ワクチン(上記以外のワクチン、例えばインフルエンザワクチンなど)については影響なしとされています。

その他の臨床的副作用としては、蕁麻疹、発疹、喘息や鼻炎などのアレルギー症状の一時的悪化、眠気、頭痛、発熱、注射部位の疼痛、発熱などがあります。稀に心悸亢進や肝機能(GOT、GPT)の上昇がみられるとの事です。

妊娠中の方にも安全性が確立していないという理由でヒスタグロビン注射は行いません。また、月経直前もしくは月経期間中の方も月経時の症状を一時的に悪化させる可能性があるため、その期間は避けるようにしてヒスタグロビン注射を行います。

当クリニックでの治療

当クリニックではヒスタグロビン注射による減感作療法を行う場合は、治療の適応、効果判定、副作用のチェックを兼ねて血液検査による評価を行っています。検査項目はアレルギーの指標として好酸球数、IgE、アレルゲン検査、治療のリスク管理として肝機能、腎機能、他に血糖、脂質などを測るのが標準的です。

この様にヒスタグロビン注射による非特異的減感作療法は特異的減感作療法に比べて安全で手軽に行える利点があります。また特定のアレルゲンにのみ効果があるのではなく、全般的に効果があります。しかし、減感作療法の様にアレルゲンに対して全く反応しなくなる事は期待出来ませんし、効果も3~4ヶ月で消失します。

ヒスタグロビン注射の効果を持続するためには、添付文書によると3ヶ月毎に1回注射を続ける事となっています。効果が少なければ3アンプルまで増量可能とされていますが、私の経験ではこの方法では持続効果は薄い印象があります。3ヶ月毎に1回、1アンプルの追加注射で効果が少ない事が予想される場合、当クリニックでは3~4ヶ月毎に3回を1クールとした追加注射を行う様にしています。また、スギ花粉の時期のみ症状がある場合は毎年1月から2月上旬に6回を位1クールとした投与を毎年繰り返す治療を行っています。

ヒスタグロビン注射は同じくアレルギー性疾患に効果を持つノイロトロピン注射※1と一緒に投与すると相乗効果でさらに有効性が高まりますので、当クリニックでは併用治療をお勧めしています。

※1花粉症の話2012 ノイロトロピン注射 はこちら

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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