当クリニックで力を入れている漢方の話をします。

漢方は約2000年前に中国で成立した医学体系に基づいた治療です。自然の草木や鉱物、動物などに由来した「生薬」を組み合わせる事により病気自体はもちろんの事、身体全体のバランスを整える事で症状の改善を図る治療法です。我々が通常受けている西洋医学との違いは、一言でいえば「普遍性」を求める西洋医学に対して、「個別性」を追求したのが漢方を含む東洋医学といったところでしょうか。

西洋医学はヨーロッパで確立し、アメリカで発展しました。医学というものはその国の歴史的・文化的背景に大きく影響されます。そのため西洋医学はキリスト教的な二元論の影響で病気と健康、肉体と精神など物事をキッパリと分けたがります。「明らかな病気」以外は身体の不調があっても健康とみなされます。さらに症状が100%身体的なものに起因するのか、100%精神的なものなのかと考えたがります。また治療もその概念に基づいて行われるため我々日本人の考えにはそぐわない事態もしばしば起こります。例えば身体のだるさを訴えて医者に行っても、診察所見が正常かつ血液検査も正常であった場合、「良かったですね、異常なしです。治療の必要はありません。」と言われ、経過観察という名の下に放置されます。それでも症状が辛いから何とか治療してほしいと医者に言うと、「それでは精神安定剤でも処方しましょうか?」となってしまいます。正確で合理的ではあっても、患者の立場では少し納得が行かない医療である気がします。

西洋医学で使われる薬は古来より使われていた薬草などを化学分析し、薬効作用のある物質を特定し、それを化学合成により大量生産をします。西洋薬の理想は「人種、年齢、性別を問わず同じ薬で同じ治療効果」という点にあります。例えば身体の小さなおばあちゃんでも、身体の大きい体育会系の男子大学生でも、地球の裏側に暮らす人々でも同じ薬で対応する。ひとたび診断が確定すればマニュアル的に処方が出来、ある一定の効果は得られる。発想としてはコカコーラやマクドナルドのハンバーガーに通じるところがあります。

それに対して漢方治療は個別化の治療です。

西洋薬をマクドナルドとすると、さしずめ「鮨屋のカウンター」といったところでしょうか。漢方治療の理想は古代の中国で貴族に仕えるお抱えの医師が毎朝体調を調べて工夫する煎じ薬の漢方です。患者さんの体調や天候、手に入る生薬の質などを考慮して毎日薬を変える。患者さんに合わせたフルオーダーメイドの治療、これが理想です。
しかし、古来よりこの様な事が出来るのはごくわずかの選ばれた人達に限られます。そのため患者さんの体質を大まかに分類した「証」というものを足がかりに既存の漢方のうち最も適したものを選択する、という方法を行います。また経過に応じて処方内容を微調整し、より良い処方として行きます。まさに「医者のさじ加減」と言ったところですね。これにより同じ傷病でも患者さんの体質【証】、体調などによって処方するものが異なることを「同病異治」といいます。

西洋薬の治療だと同じ薬をマニュアル通りに処方するため、かかりつけ医の意義が薄れがちです。それに対して漢方治療はかかりつけ医に長く診てもらう事によって、次第に良い医療が受けられる様になって行きます。先ほど漢方治療を「鮨屋のカウンター」に例えましたが、実は漢方を処方する医師と患者さんとの関係は鮨屋の大将と客の関係にどこか似ています。
初めて来た客が何を注文して良いか判らないで迷っている時、鮨屋はその人の性別、年齢、身体の大きさなどから客のタイプを見極め、過去の同じようなタイプの客のデータに照らし合わせます。その上で客が満足する可能性の高いネタの候補を念頭に置きながら会話をし、お勧めの物を決めて行きます。例えば身体の小さな高齢のご婦人には白身魚のお造りを勧めたり、身体の大きな体育会系の大学生にはウニ・イクラ・中トロ山盛りの海鮮丼を勧めたりします。さらに「今日は~が食べたい。」という希望があればそれに沿って細かい調整を加えます。前者が望診や舌診・腹診による「証」の決定であり、後者が問診などで得た自覚症状などの情報による処方の選択になります。その様な過程を経て処方が決定します。

その後も西洋薬による治療であれば再診時の薬に関する医師と患者さんとのやり取りは、「薬の効果」(それも自覚症状より血液検査のデータが優先される)と「薬の副作用」のチェックに終始します。細かい自覚症状による調整はほとんど行われません。
それに対して漢方薬による治療では再診時に常に自覚症状や診察所見による微調整が常に行われます。また、長く通っているうちに医師も患者さんの状況を細かく把握する事が出来て行き、患者さんもどの薬が合っているかを実感出来てきます。それが積み重なって行くうちに阿吽の呼吸で良い処方となって行きます。漢方の治療体系の特性もその微調整を可能としています。鮨屋のカウンターでも常連になり、「大将、この前の~はうまかったねえ。」とか「これはちょっと俺の口には合わないかな。」「ならこれなんかどうだい。」などと会話をしながら足しげく通いつめていくうちにどんどん満足を得られる様になって行く感じです。
漢方の場合でも同様で、「先生、この前の薬良く効くよ。」とか「飲んでみたけど全然効かないよ。」とか「効いたけど胃が痛くなるよ。」などと率直に言ってください。その都度処方を工夫し、患者さんと一緒にピッタリの処方を探してゆく。これが漢方治療の醍醐味だと思います。西洋薬治療の象徴であるマクドナルドでは常連になったとしても「俺にピッタリのハンバーガー」が出るようにはなりません。

大きな副作用が西洋薬に比べて少ないというのも漢方薬の特徴です。

そのため、試しに飲んでみるという事も比較的容易に出来ます。また身体への負荷が少ないため長期間の服用も比較的安心です。もちろん「安全な薬をお出しする事」と「安全確認を怠る事」は違いますので、処方する医師の立場では定期的に採血などで副作用の有無をチェックする事は重要ですが、患者さんの立場では漢方の内服に不安を感じる必要はありません。
当、代官山パークサイドクリニックでは、ツムラ、クラシエ、コタロー、オースギなど、保険適応の漢方薬による治療を行っております。飲みやすい顆粒の漢方薬に加え、錠剤やカプセルでもご用意できる漢方薬もあります。どうぞお気軽にご相談ください。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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