アトピー治療に於いて重要なアレルギーの仕組みの話をします。
 今回のテーマは、「判かりやすいアレルギーと判りにくいアレルギー」です。

 先ず、私たちがアレルギーと言われてすぐに思い浮かべるのは、スギ花粉症や蕎麦アレルギーです。
 スギ花粉症の人は、他に何のアレルギーを持っていなくても、春先にスギ花粉が飛び交う時期になると、スギ花粉というたった一つのアレルギーの原因となる物質=アレルゲンに反応して、仕事にも支障をきたす様なアレルギー症状(鼻汁、くしゃみ、目のかゆみなど)をきたすという物です。この症状は、スギ花粉の時期が過ぎれば何事もなかったかの様に消失しますし、シーズン中でも、スギ花粉に暴露されなければ、全く無症状となります。
 クレープやお菓子の中に蕎麦粉が使われていると知らずに食べて呼吸が苦しくなった蕎麦アレルギーの方なども判りやすいアレルギーの例です。
即時型の食物アレルギーを持っている人は、蕎麦やエビなどアレルゲンとなりうるものが含まれていなければ、何の問題もなく食事が出来るのですが、微量でもアレルギーを起こす食材が含まれていれば、場合によっては重篤な症状である呼吸困難や意識障害を引き起こし、最悪は救急搬送されるケースも少なくありません。
近年、沖縄のジーマーミ豆腐に含まれるピーナッツのアレルギーが原因で救急搬送者が相次いだ事をご存知の方もいるかもしれません。
この様な食物アレルギーによる被害を防ぐための試みとして、レストランのメニューや加工食品にアレルゲンとなりうる成分を表示する事が普及しつつあります。アレルギーを持つ人は、アレルゲン表示を確認する習慣をつけると良いかもしれません。

それに対して、アトピー性皮膚炎に関しては、“判りにくいアレルギー”が深く関与します。数多くのアレルゲンが関与し、その総和でアレルギー症状が悪化するという物です。
このアレルゲンさえ避ければ大丈夫、という事が成立しないアレルギーです。

私は、前者である“判りやすいアレルギーを”、ボクシングに例えて「必殺の右ストレートパンチ型」と呼んでいます。あのパンチさえ食らわなければ、というタラレバを言いたくなる、そのスギ花粉などのアレルゲンさえ避けられれば何ら問題なしというケースです。
それに対して、後者である“判りにくいアレルギー”は、さしずめ、「無数のジャブやボディブローを浴びて、ついに力尽きる」といったところでしょうか。どのパンチを貰わなければということが成立しないタイプ。“このアレルゲンさえ避ければ、何の問題もなくアレルギーも解決”という事にならないタイプのアレルギーです。

前者“判りやすいアレルギー”の場合は、日常の対処法や治療は比較的容易です。
先ずは、原因となるアレルゲンを可能ならば避ける。すなわち、食物アレルギーならば、アレルゲンを含む食品を食べない事が重要です。
吸入系のアレルゲンの場合は、完全除去は困難ですが、なるべく吸入を少なくすることは重要です。スギ花粉の場合はマスクなどを活用し、ハウスダストの場合は空気清浄機を活用する、などです。
治療は、抗アレルギー剤や漢方薬、外用薬などを、症状に合わせて使用します。
その他、特殊な治療としては「特異的減感作療法」という物があります。

特異的減感作療法とは、医療機関で行う治療で、注射による方法と内服で行う方法がありますが、現在は内服で行う方法が主流です。
特異的減感作療法は、少量のアレルゲンを身体に繰り返し投与し続ける事によって、次第にアレルギー反応を出にくくしていきます。
現在、内服=舌下投与が可能な特異的減感作療法の治療薬は2つ。スギ花粉に対する「シダトレン」と、ハウスダスト(ダニ)に対する「ミティキュア」です。
スギ花粉症のシダトレンは、現在の研究では、3年間の投与が良いとされていますが、治療効果が極めて高い事が立証されています。
ダニ抗原に対するミティキュアについては、シダトレンンより1年以上遅れて認可された事もあり、治療効果のデータはまだ得られてはいませんが、シダトレン同様の高い効果が期待できます。

この様に高い効果を持つ特異的減感作療法ですが、欠点もあります。それは、一つのアレルゲンにしか効果がないという事です。
例えば、シダトレンはスギ花粉症の抑制には極めて有効であっても、スギ花粉症に合併する事の多いヒノキ花粉症には全く効果がないのです。
それでもスギ・ヒノキ両方の花粉症を持っている場合、スギ花粉にだけでも反応しなく出来れば、全体的な症状はずいぶん緩和されますので、治療を行う価値はあると言えますが。

しかし、後者“判りにくいアレルギー”であるアトピー性皮膚炎などの場合はどうでしょうか?
アトピー性皮膚炎の場合は、関与するアレルゲンは多岐に渡ります。一応、ハウスダストの関与が大きいと言われてはいますが、アレルゲンの中ではワン・オブ・ゼムにしか過ぎず、特異的減感作療法でハウスダストを治療したとしても、全体的な改善効果は極めて僅かと言わざるを得ません。
何か、良い方法はないのでしょうか?

実はあります。ヒスタグロビンという注射を用いた“非特異的減感作療法”です。
ヒスタグロビン注射は、好酸球の抑制、肥満細胞からのヒスタミン放出の抑制に加え、ヒスタミンに対する感受性を抑える事によって、全てのアレルゲンに対してアレルギー反応の抑制=減感作療法を行う事が出来るという物です。
ヒスタミンの感受性を抑えるため、アレルギー体質の改善効果も期待できます。
一つ一つのアレルゲンに対する効果は、スギ花粉のシダトレンやダニのミティキュアといった特異的減感作療法には劣りますが、総合的な減感作を行えるという点では、優れている。これがヒスタグロビン注射による非特異的減感作療法です。
アレルゲンが多岐に渡り、慢性的に経過するアトピー性皮膚炎には、この非特異的減感作療法はまさにうってつけの治療と言えます。

この非特異的減感作療法、ヒスタグロビンという皮下注射で行うため、注射が苦手という人には少々ハードルが高いと感じるかもしれません。でも、そんなに痛い注射ではないし、注射の後も仕事や運動などは通常通りに行う事が出来ます。

現在、抗ヒスタミン薬の内服やステロイドの外用治療を行っている人でも、このヒスタグロビン注射を併用する事は何ら問題ありません。
現在の治療はそのままに、ヒスタグロビン注射を開始し、徐々に体質を改善していき、結果的にステロイドや内服薬を減らしていく様にすれば良いのです。
もちろん、漢方薬との併用も問題ありません。体質改善という観点からすると、ヒスタグロビン注射と漢方薬の併用は、むしろ望ましいと私は考えます。

アトピーがなかなか良くならない方。ステロイドから脱却したい方。是非ともヒスタグロビン注射による非特異的減感作療法を検討されてはいかがでしょうか。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設