新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の検査についての続報です。
感染の収束傾向を受けて、プロ野球の開幕を2020年6月19日に控えた6月3日。野球界に衝撃を与えるニュースがありました。
東京巨人軍の主力である、坂本選手、大城選手2名の新型コロナウィルス感染が判明したのです。
しかし、その経緯は我々医師からすると少々特異なものに映りました。

事のきっかけは、5月29日から31日にかけて、巨人軍選手、関係者計220名のうち希望者218名に新型コロナウィルスIgG抗体検査を実施したことによります。
その結果、4名に陽性反応が出たため、その者に念のためPCR検査を施行したところ、両選手のPCR陽性が判明し、入院となったのです。ちなみに坂本、大城両選手は全く無症状でした。
私からすると判らないのは、なぜこの時期にIgG抗体検査をしたのかという事です。
IgG抗体検査というのは、感染からある程度の日数を経て生じる抗体で、主目的としては感染の既往があるか否かを判断するために行います。
新型コロナウィルス感染症が判明した者がいない巨人軍関係者のうち4名が抗体陽性という事は、それまでのどこかの段階で感染していたという事を示します。つまり、知らずに感染した人が今までに4人存在したのです。
新型コロナウィルス感染症は、当人が無症状でも他者への感染力を持つ期間が存在すると推定されます。という事は、巨人軍関係者の中で、4人が無自覚のまま感染源となりうる状態であり、それを球団は全く把握できていなかったという事になります。
そして、この状況が、開幕後は起きえないと言いきれるのでしょうか。
プロ野球開幕について、不安が残ります。

また、PCR陽性が確認されてからの対応にも大きな疑問が残りました。
坂本、大城両選手のPCR検査の結果は、定量的には僅かな陽性=微陽性であるため、通常のPCR陽性者とは意義が異なるため、連日PCR検査を行い、早期の一軍合流を目指すというものです。
PCR検査はウィルスの遺伝子を検出するため、陽性に出た場合はウィルスが確実に存在することを表わします。しかし、活性のある、感染力の高いウィルスで陽性となる場合もあれば、死んだウィルスの遺伝子を拾って陽性となる場合もあり、この両者は見分けられないのです。
それに、PCR検査で陽性に出た場合の対処はルールとなっています。見分けられない以上、最悪の事態=感染力を有するウィルス感染である事を想定して、入院継続や隔離を含むフォローの体勢をとる、これがルールです。
それを、今回は、ギリギリ陽性の状態であるという事で、“微陽性”なる造語を作って無理やり特別に扱っているように見受けられます。
検査の意義や精度については、様々な意見があるとは思います。しかし、いったん結果が出た以上、ルールはルールです。絶対です。
ましてや、球界を代表する球団です。社会的な常識とルールは順守してくれると信じます。

私は小学生の時から地元の近いよみうりランドのジャイアンツ球場に足しげく通っていた野球少年でした。大学時代も野球をやっていました。多くの皆様と同様、私も“no baseball,no life.”の一人です。
日本の野球は世界に誇るレベルであり、それを観戦できるのは大きな喜びでもあります。しかし、だからこそ誇りを持った球団運営、リーグ運営を行い、選手・関係者、観客の安心と安全に配慮した試合を行う事が重要と考えます。
そして何より、ルールに基づいた公明正大なプロ野球であってほしいと心から願います。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設