2021年4月になっても新型コロナウィルス感染症は収束の兆しが見えません。
感染拡大に伴い、各自治体の長により、65歳以上の高齢者や基礎疾患を持つ人は不要不急の外出を控え、ステイホームを心掛ける様に呼びかけられています。

出口の見えないコロナ禍は、高齢者に顕著な影響を及ぼします。
不要不急の外出を控える事は重要ですが、控えすぎて、運動量が低下し、不活発による筋力の低下、それが慢性化する事により筋委縮が生じる事は、生命健康に大きく悪影響を及ぼします。
筋力低下により、立ち上がり動作や歩行速度、階段昇降などの日常生活活動動作が不活発=活動性低下傾向となります。
筋力低下による不活発は、間接的に精神面にも多大な悪影響を及ぼします。
コロナ感染への不安から、ステイホームの名のもとにずっと家に閉じこもり、人との接触・会話が減り、日常生活への意欲も食欲も低下する。
これらの症状は、脆弱性=フレイルを生じていると考えられます。

実は、このフレイル。高齢者にとっては、生命健康を害する最も大きな要因となりうる病態なのです。
静かに進行する最も怖い病態。サイレントキラーであるフレイル予防についての話をします。

先ずは、フレイルとは何でしょうか。
フレイルとは、『加齢により心身が老い衰えた状態』を指します。
フレイルは、海外の老年医学の分野で使用されている英語の『Frailty=フレイルティ』が語源の言葉、いわゆる和製英語です。野球の“ナイター”みたいな感じですかね。
Frailtyを日本語に訳すと“虚弱”や“老化(老衰)”、“脆弱”などとなります。
日本老年医学会が高齢者において起こりやすい“Frailty”に対し、2014年5月に“フレイル”という言葉を使う事を提唱しました。

フレイルは、厚生労働省研究班の報告書によると『加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像』とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。
多くの方は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが(要介護状態に至る前段階がフレイルであるとも言える)、高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。

高齢者が増えている現代社会において、フレイルに早く気付き、正しく介入=治療や予防を行うことが大切です。

フレイルの基準
フレイルの基準には、種々あります。(これが、フレイルの概念を曖昧というかあやふやにしている要因でもあります。)
フレイルの基準で最も使われているのは、Friedらが提唱したものです。
Friedの基準は以下の5項目です。このうち、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します。

① 体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
② 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
③ 歩行速度の低下
④ 握力の低下
⑤ 身体活動量の低下

フレイルには、体重減少や筋力低下などの身体的な変化だけでなく、気力の低下などの精神的な変化や社会的なものも含まれます。 次に、フレイル状態に至るとどのようなことが起きるか説明します。

フレイルになるとどうなるのか?
フレイルの状態になると、身体能力の低下と精神活動の低下が起きます。
それによって、慢性疾患があれば悪化しやすくなり、感染症などの急性疾患にかかりやすくなります。また、精神的にもストレスに弱い状態になっています。
フレイルは、それらの慢性、急性疾患を悪化させる事によって、生命健康を脅かしていきます。

この様にまさに万病のもとであるフレイルですが、早期に対応できれば健康被害は劇的に減少します。
フレイルの状態に、本人はもちろんの事、家族や医療従事者が早く気付き予防・治療など介入することができれば、フレイルの状態から健常に近い状態へ引き戻したり、現状を維持する事が出来ます。それにより、フレイルの悪化で、要介護状態に至る事を阻止出来るのです。

生活習慣病の悪化とフレイル
フレイルは生活習慣病の治療や合併症へも大きく影響します。
生活習慣病のひとつである高血圧を例にとって話します。
フレイルになると、血圧が乱高下する様になります。起立性低血圧、起立性調節障害の割合が増加するのです。高血圧の予後にとっては、血圧が高い事も良くないのですが、それ以上に血圧が変動する事が良くないとされています。
高血圧の人がフレイルになると、血圧の変動が大きくなることにより、脳梗塞などを発症する可能性が増えたり、心不全になる可能性が増加します。
また、糖尿病についてもフレイルは悪影響があります。糖尿病自体がフレイルになるリスクを増加させますが、逆にフレイルになると、血糖コントロールが不良になります。その結果、フレイルは糖尿病の発症リスクを増加させます。

フレイルを防ぐには?
まだまだ先が見えない新型コロナウィルス感染症ですが、1‐2年中には、ワクチンなど何らかの対策により、“落とし所”に落ち着くと思います。
しかし、それまでに、自粛をしすぎてフレイルになってしまえば、生涯にわたって健康リスクを抱える事になります。
自粛によりコロナになるリスクを多少回避できたとしても、フレイルになってしまえば、それとは比べ物にならない程の生命健康のリスクを抱えます。
ウィズコロナの時代、フレイルを防ぐことは、今までの時代に増して重要で急務と考えます。

フレイルの予防にとって重要なものは、運動、栄養・口腔衛生、コミュニケーションの3点をいわれています。。

① 運動:毎日欠かさず、少しでも、動く時間を増やす。
感染予防に配慮した上で、ウォーキングなどの運動が推奨されます。
歩行が難しい方も自宅でもできる運動を行いましょう。スクワット、片足立ち、足踏みでの筋力アップや、太もも裏筋肉ストレッチなどが効果的です。
自宅での運動方法は、厚生労働省のサイトでも紹介があるので参考にされると良いでしょう。

② 栄養・口腔衛生:食生活・口腔ケアをしっかりと行う。
三食欠かさず、バランスよく栄養を摂ること。
特に、筋肉を形成するタンパク質(肉・大豆・魚等)、骨や筋肉を丈夫にするビタミンD(きのこ類)を積極的に採りましょう。
毎食後寝る前に歯磨きなどの口腔ケアを行う事は大切です。歯を守り、口腔内を清潔に保つことが、摂食悪化による低栄養を防ぐのみならず、肺炎などの感染防止にも役に立ちます。

③ コミュニケーション:人とのつながりを作る。
過剰な自粛に伴う、引きこもり状態を防ぎ、心身の健康を保つために、人との交流や助け合いが大切です。
高齢であっても、電話をしたり、PC、スマートフォンでSNSを積極的に活用し、家族、友人と交流を心がけましょう。
これが認知機能を維持し、鬱や認知症の予防に繋がります。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設