アトピー性皮膚炎の治療の話を続けます。
 前回、身体に優しい治療とは何かという話をしました。今回は、現在アトピーで行われている一般的な治療=標準的治療の問題点についてお話したいと思います。
 
 先ず、アトピーなどのアレルギーの標準的治療について具体的な話します。患者さんの病状や皮膚科で診るのか内科で診るのかによっても多少は異なりますが、概ね次の様になります。
① 抗ヒスタミン剤内服で掻痒感を軽減させる。抗ヒスタミン剤には、アレグラ、クラリチン、タリオン、アレロック、アレジオン、ザイザルなどがあります。
② ステロイドの外用薬を患部に使用する。
③ 保湿効果のある外用薬を適宜併用する。
④ 外用薬の免疫抑制剤(プロトピックなど)を適宜併用する。強めのステロイドを使いにくい顔面に使用する事が多い。
⑤ 効果が不十分な場合は、他のカテゴリーの抗アレルギー剤を併用する。
⑥ それでも治療効果がない場合は、ステロイドホルモンの内服を検討する。
正式な学会のガイドラインとは少々異なりますが、概ねこの様な流れで治療は行われて行きます。

この標準的治療、とても確実な良い治療なのですが、二つ欠点があります。
 一つは、治療が有効でない場合には、治療薬がそれに従って追加になって行くという事。そして、西洋薬の場合、治療薬による身体の負担が少なくないため、それを考慮して、治療を進めていく必要があるという事です。
 もう一つの欠点は、治療のゴールが見えにくい事です。
 アトピー性皮膚炎の標準的治療では、主に西洋薬が使われるために、病状の根本改善が期待できません。もちろん、病状を放置する事による悪化を防ぐという意味ではとても優れた治療法であるため、治療を行う意義は大いにありますが、アトピーという極めて長期間にわたる治療を要するものに対処するには、いささか長期的視野に立った治療方針が立てにくいという面があります。
 例えば、上記のステロイド外用薬を例にとって説明をします。
ステロイド外用薬の塗布原則は、チューブから出した量が指の節目一つ分の長さ(2-3cm)を手のひらの大きさの皮膚に塗るとなっています。全身に塗布すると結構な量になります。これを、ステロイドが必要と判断される場合は、継続的に使用します。この塗布量は、現実的には長期間塗り続けられるものではありません。
 これが、一過性の皮膚の発疹であれば、大きな問題はありません。長くても数週間で治癒する見込みがあるからです。ステロイドの副作用を含む身体負担についても非常に少ないと予想されます。
 しかし、アトピーの場合は、治療が長期に渡るため、身体の負担や副作用の発生確率も少なくないものがあります。
 これは、内服薬についても同じ傾向があります。
 抗ヒスタミン剤は、病状が持続している限りは、原則エンドレスで飲み続ける事が望ましいのですが、抗ヒスタミン剤を飲み続けたからと言って、病状が改善する事は決してありません。
 もちろん、痒みなどの症状は抑えてくれるし、皮膚の掻き壊しによる更なる皮膚所見の悪化を防ぐという意味では、治療の意義は十二分にあります。病状の本体を変える事が出来ないにしても、治療はやめるべきではありません。
 しかし、長期的な戦略が立てにくい状況であるのは悩ましいと言わざるを得ません。

 私は、長期的計画というものは、何事においても最も重要であると考えます。
 長期的な計画が無ければ、物事は必ず成功しません。
 マラソンでいえば、一生懸命に走ることは重要です。しかし、もっと重要な事は、ゴールがどこか判って走る事です。
 アトピーの治療で言えば、標準的治療で定められているのは、“戦術”の部分。一生懸命走る事です。しかし標準的治療には、長期的な“戦略”の部分が欠如している気がします。ゴールをしっかりと見据えて走るという要素です。

 治療戦略という観点で言うと、アトピーに関して重要なものは2つ。
 一つは、アトピーは、基本的には現在の医療で完治する事が期待できない。治療は、エンドレスにならざるを得ない。ならばどうするか?
 もう一つは、医療で完治が期待できないのであれば、他に有用なものはないのだろうか?それを治療と組み合わせる事は出来ないのか?
 という事です。

アトピー性皮膚炎の治療は、強度の高い治療が通年性に続き、それが何年にも渡るという特徴があります。
そのため、身体の負担が比較的少ない治療であったとしても、チリも積もれば山となるで、長期的には身体の負担が大変大きなものになります。
可能ならば、副作用や身体の負担がゼロであるもの、もしくは負担がマイナス、つまり治療をすればするほど身体状況が良くなるものがあるのならばそれが望ましいと考えます。
アトピーにはアトピーの治療戦略を立てる事が重要であり、これは、花粉症など他のアレルギーの戦略とは異なるものになります。
アトピーの戦略に欠かせないものは3つ。
1. 食生活の改善
2. 漢方薬の併用
3. ヒスタグロビン注射による非特異的減感作療法です。
 これらの要素を、標準的治療とうまく組み合わせる事によって、真に身体に負担の少ない、長期的な見通しが立つ戦略的なアトピー治療が可能になるのです。

 次回は、これらの標準治療を補完していく要素について具体的にお話したいと思います。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設