コレラは、ビブリオ属のコレラ菌という桿菌によって引き起こされる疾患であり、汚染された水や果物などの食物を摂取する事によって感染する疾患です。
感染後、数時間から5日程度の潜伏期間を経て、下痢や嘔吐などの症状が出現。重症化すると、米のとぎ汁の様な白い水様下痢を一日10リットル以上生じ、その結果全身の脱水をきたし、死に至る事もある疾患です。
2015年の患者数は、WHO(世界保健機構)に報告されたものでは、世界42か国で172454例。そのうち死亡例は1304例となっています。しかし、これは氷山の一角にすぎず、実患者数は、発症数286万人、死亡者数9万5千人に上ると推定されています。

コレラが初めて人に感染した地域=感染源となったのは、インドはガンジス川の下流と言われています。
その後、インドを支配した大英帝国が、同地を世界貿易の拠点として、人の交流が盛んになった事もあり、1817年以降、度々世界的な流行があり、その度に多くの感染者、死者が出ています。
我が国でも明治維新以降、度々コレラの流行にさらされ、1886年には全国で死者10万人を記録するなど猛威をふるいました。
その後、下水道の整備とともにコレラは減少し、現在の我が国の発生例は年間100例以下。そのほとんどは流行地域への渡航後の発生例となっています。

コレラの予防では、流行地域で汚染された水、食物を摂取しない事が重要です。
先ずは、生水を飲まない事。必ずペットボトルの水を飲む事が重要です。レストランなどで提供される氷も、水道水や井戸水を使っている事がほとんどですので要注意です。
歯磨きの時に使う水も可能ならペットボトルの物を使いたいところです。不可能な場合でも最後にはペットボトルの水で口をすすぎます。
食事では、調理器具、特にナイフを介しての感染に注意が必要です。
コレラ菌は、熱への抵抗性が比較的弱く、56℃、30分の加熱で死滅するため、加熱された料理に使用する際の調理器具については心配ありません。
それに対し、生野菜や果物については要注意です。
汚染された水で洗った可能性のある野菜(レストランでの野菜サラダを含む)や、果物の表面にはコレラ菌が付着している可能性があります。
また、汚染された水で洗ったナイフで切った果物からも感染の可能性がありますので要注意です。
ちなみに私は、コレラ流行地域への旅行の際には、100円ショップの果物ナイフとアルコールティッシュを必ず持っていきます。果物ナイフは決して水道水では洗わず、最悪の場合は使い捨てにしています。
プールの水を誤飲したり、シャワーで歌ったりするのも、汚染された水を摂取する事に繋がるので避けたいところです。映画のタイトルにもある「ガンジス河でバタフライ」などの行為は絶対にしない事ですね。

コレラの予防に関してもう一つ重要な事は、胃腸の状態を良くする事です。
コレラ菌は、酸に弱くアルカリを好みます。胃酸の分泌状態が良いとコレラ菌が胃で死滅する可能性が高くなり、発症予防になります。胃潰瘍や逆流性食道炎などで胃酸分泌を抑える薬を飲んでいる場合などは、コレラ菌に対する防御が弱体化している可能性があるので要注意です。
プロバイオティクスという善玉菌を含むサプリメントや食品で、腸内細菌叢を整える事も、コレラ菌の増殖を抑え、発症予防や重症化阻止に有効です。インドの裕福な家庭では、善玉菌が多く入っているラッシーを日常的に飲み、コレラなどの感染症の予防に役立てています。

コレラについては、ワクチンも存在します。
我が国では未承認のワクチンのため、輸入ワクチンとなりますが、2011年にWHOが承認した安全な経口不活化ワクチンです。2回の摂取でコレラ菌の感染を50から90%防いでくれると推定されています。

コレラに対する予防は、汚染された水や食品を摂取しない事を基本とします。しかし、完璧に防御する事は不可能であるため、コレラ流行地域での滞在が2週間以上に渡る場合や、奥地に行く場合には、コレラワクチンの摂取が重要と考えます。

経口コレラワクチン(DUKORAL)についてはこちら→

http://www.travel-vaccination.jp/02vaccination/18_cholera.html

出典:「感染症についての情報・コレラ」(厚生労働省検疫所FORTH)

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設