③ 今回の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)
2019年12月に中国、湖北省の中心都市、武漢市で発生したのが、COVID-19という疾患を引き起こすSARS-CoV-2という新しいコロナウィルスです。
感染者の初症例報告は2019年12月8日。その後12月31日に44例の原因不明の肺炎として世界保健機構(WHO)に報告されています。その後この肺炎は、SARS-CoV-2という新型コロナウィルスによる疾患=COVID-19と命名されました。
この新型コロナウィルス感染症=COVID-19は、当初は発生源が武漢の生鮮市場で取り扱われた動物からヒトへの感染とされ、ヒトからヒトへの感染はないと考えられていました。
しかし、その後COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2は他のコロナウィルスと同様ヒトからヒトへの感染が起こる事が判明。それも感染力は通常のインフルエンザよりも強いのではないかと推測されるとなって状況は一変します。
2020年1月に入って、武漢市内では、感冒症状から急激に呼吸困難に陥る患者が続出します。
武漢市は、2020年1月23日に市内の交通機関を停止し、ロックダウン=都市封鎖を実施しますが感染拡大を止めることが出来ませんでした。
その後、完全に封鎖され、買い物にも出られず自宅に長期間とどめ置かれている人たちや、患者があふれ医療崩壊を起こす病院の様子がテレビで報じられることを見るにつけ、皆さんも心が痛んだことと思います。
しかし、その時はまだそれは他国の話、どこか“他人事”でした。
2020年1月30日、WHOはCOVID-19=新型コロナウィルス感染症を『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態=PHEIC』に該当すると宣言します。その後感染拡大が生じるのですが、頑なにパンデミック=世界的大流行には該当しないと言うなど、一貫性を欠く発言も多々認められました。
その後、爆発的に感染者は増加し、2020年4月20日の時点での感染者は、世界193の国と地域で236万3210人。死者は16万4016人となっています。
我が国での感染者数は我が国での集計上(クルーズ船やチャーター機での帰国者を含めて)4月19日現在1万1132人、死者237人となり、かつ感染者は増加傾向。4月7日に発令された緊急事態宣言が全国に拡大し、5月6日まで継続される予定となっています。
④ COVID-19=新型コロナウィルス感染症の感染経路
COVID-19を引き起こす新型コロナウィルス=SARS-CoV-2の感染経路は、通常のコロナウィルス=H-CoVと同様、飛沫感染が主体となります。しかし、現実的には飛沫を直接吸入する感染よりも、飛沫が付着した物に触れた手を口などに持っていく事による広義の接触感染を避ける事が重要です。
また、ウィルスを含む飛沫がより細かい粒となり感染を生じる“エアロゾル感染”を起こす事も新型コロナウィルス=SARS-CoV-2の厄介なところです。
新型コロナウィルス=SARS-CoV-2のウィルス侵入からCOVID-19感染症状の発症までの期間=潜伏期間は、1~13日(中央値5日)。行政的には安全域を考え、濃厚接触者や当該地区からの帰国者など感染の可能性のある人の隔離期間は14日となっています。
感染力の指標として用いられる感染基本再生産数(一人の感染者が平均何人に感染させるかの数。この値が高ければ高いほど感染力が強いと考えられる)は、新型コロナウィルス=SARS-CoV-2は3.28と極めて高い値となっています。ちなみにSARS-CoVは0.91、MERS-CoVは0.95。季節性インフルエンザでも1.28です。
また、SARSやMERSと異なり、新型コロナウィルス=SARS-CoV-2は発症前や無症状の感染者からの感染のケースも少なくない事が感染拡大を抑制しにくい大きな要因となっています。
⑤ COVID-19=新型コロナウィルス感染症の症状
独立した複数の臨床研究を統合し、統計的手法を用いて解析するという手法=メタ解析によるCOVID-19=新型コロナウィルス感染症の症状は以下となっています。
発熱87.9%、咳64.7%、倦怠感37.1%、息切れ35.7%、筋肉痛22.2%、痰21.1%、咽頭痛8.4%、頭痛8.1%、下痢6.5%、鼻汁1.7%。
症状は概ねH-CoVやインフルエンザによる一般的な感冒症状に似ていますが、より呼吸器系の症状が強い事が伺えます。
また、3月にプロ野球阪神タイガースの選手、関係者に発生したクラスター感染では、他の症状が乏しいのに嗅覚、味覚などが鈍くなるというケースが報告され、その後、COVID-19=新型コロナウィルス感染症の初期症状としてこれらの感覚異常が指標として使われる様になってきています。
COVID-19=新型コロナウィルス感染症の罹患期間という観点からは、初期症状が出現してから軽快するまでの期間は7日程度とインフルエンザなどの他の感冒症候群に比べて長目となっている様です。
COVID-19=新型コロナウィルス感染症のうち、80%の人は比較的軽症に経過しますが、20%程度が重症化するといわれています。
重症化のケースは肺炎を生じる事が多く、発熱や咳などの初期症状が出現してから、呼吸困難などの重症化に至るまでの期間の中央値は8日間。比較的長い経過を要していいます。しかし、ひとたび呼吸困難などが生じると、数時間などの極めて短時間に急激に悪化し、生命にかかわることもあります。
そのため、発症時には軽症であったとしても、きめ細かく経過を観察し、肺炎が疑われる場合はCTスキャンなどで診断し、生命の危機に瀕していると判断された場合は人工呼吸器を用いた集中治療を行う必要があります。
⑥ COVID-19=新型コロナウィルス感染症の診断
COVID-19=新型コロナウィルス感染症に現在感染しているか否かの検査にはPCR法という手段が用いられます。
PCR検査とは、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、ウィルスゲノム=ウィルスの遺伝子を検出することによって行います。検体は主に咽頭粘膜のぬぐい液や喀痰などが使われ、専門の検査機関が解析を担当します。
PCR検査は現在のところ唯一の診断法となっていますが、検査の特性として高い特異度と低い感度を持つといわれています。これは、PCR検査で陽性となった人は、ほぼ確実に新型コロナウィルスに感染していると診断できますが、陰性となった人の中にも少なからず感染者が含まれている事を意味します。つまり、PCR検査では見破れないケースが少なくないのです。(そのため複数回の検査を行う場合があるのです)
我が国では、2020年4月現在PCR検査は一般の医療機関では受ける事は出来ません。検査は指定の医療機関で実施されますが、検査を実施するか否かの判断は、各地の保健所もしくは帰国者・接触者相談センターが電話で行う事となっています。
相談する目安は以下
☆感染者との濃厚接触があり、かつ感冒症状がある場合
☆37.5℃以上の発熱が4日間以上続く(高齢者や基礎疾患がある人は2日以上)
☆強い倦怠感や息苦しさがある
上記の人のうち、センターが必要と判断すれば、指定医療機関でPCR検査、それ以外の人は一般の医療機関を受診という流れになっています。
現在、新型コロナウィルスの可能性が低い感冒症状の患者さまであっても、感染拡大防止の観点から他の患者様との接触を避けるために、時間的、空間的な隔離を行う事が医療機関では行われています。
その他にも、過去に感染した事があるか否かを判断する、血液検査によるSARS-CoV-2抗体検査というものもあります
アメリカ合衆国、カリフォルニア州サンタクララで行われた抗体検査では、PCR検査で判明した人の実に50倍以上の人に感染の既往がある可能性があるという事でした。
抗体を持っている人については、COVID-19=新型コロナウィルス感染症への感染リスクが減少ないし無くなる可能性があるとは言われています。ただし、SARS-CoV-2というウィルスにはまだ判明していない事も多いため、性急な判断は危険かもしれません。
我が国でも、2020年4月末までに抗体検査を始める予定とされています。
⑦ COVID-19=新型コロナウィルス感染症の治療
COVID-19=新型コロナウィルス感染症だけに限った話ではないのですが、ウィルスに直接効く薬はありません。細菌感染に於ける抗生物質に対応するようなウィルスを殺す医薬品は存在しないのです。ウィルスを退治するのは身体の防御機能だけです。
そのため、重症化した場合は、呼吸や循環を補助することによって生命を守り、身体の免疫機能がウィルスに打ち勝つのを待つことしかできないのです。
ウィルスに直接効果のある薬剤は存在しないのですが、ウィルスの増殖を抑えたり、ウィルスの活動性を低下させる物は存在します。(ウィルスは我々の身体の細胞内に侵入し、そこで自身のコピーを生産し、細胞を破壊してウィルスを外にまき散らすという事で増殖します。抗ウィルス薬は、細胞に侵入させない事や、細胞で増殖が出来なくしたり、細胞から外に出られなくすることでウィルスの増殖を抑制するのです。)
COVID-19=新型コロナウィルス感染症に対する医薬品開発はまだ間に合わないため、現在は既存の抗ウィルス薬などを使い、治療手段を模索している状況です。
以下に現在の医薬品の試験投与の状況を述べます。
先ずは、SARSで使われたリバビリン、オセルタミビルなどが新型コロナウィルスに対しても投与されましたが、有意な治療効果は認められませんでした。
次いでHIVの治療薬であるカレトラが試されました。その結果、新型コロナウィルス=SARS-CoV-2の増殖が抑制され、重症患者などの死亡率の有意の低下が認められました。しかし、同時に感染後早期に投与をしないと効果が期待できないという側面があるという事も判明しました。
ウィルス感染から回復した人の血清を重症者に投与するという古典的な方法もまた、すぐに開始できる安価な方法として注目されています。
我が国が開発して、来るべき新型インフルエンザに対する切り札として国で備蓄されている抗インフルエンザ薬アビガンもまた、新型コロナウィルス=SARS-CoV-2に対する効果が期待できると考えられており、指定医療機関での研究目的という名目での投与が開始されました。また、我が国の国策として20か国にアビガンの無償供与を行う事が4月7日に決定されています。
他にもエボラ出血熱やMERSにも使われたレムデシビルや抗マラリア薬クロロキン、寄生虫治療薬イベルメクチンなどが新型コロナウィルス=SARS-CoV-2に有効である可能性があるとの事です。
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