ここから先は少し専門的な話になります。
新型インフルエンザも従来の季節型インフルエンザのAソ連型のインフルエンザも同じH1N1です。ではなぜ季節型のワクチンは新型に効果がないのでしょうか?
今年(2009-2010)の季節型インフルエンザワクチンは従来流行してきた三つの型のウィルスに対するワクチンが混合されています。Aソ連型のH1N1はブリスベン株、A香港型のH3N2はウルグアイ株、B型はブリスベン株から構成されています。ウィルス株により僅かに抗原性が異なり、抗原性が一致もしくは近いウィルスから作られたワクチン程有効性が高まります。株にはそれらの世界的流行が予想されるウィルスが同定された都市の名称がつけられており、過去には2006-2007、2007-2008のH3N2のワクチンは広島株でした。実際に流行する株とは一致しない事もしばしばありますが、現在までのところ全くワクチンが無効であった例はありません。ところが今回の新型インフルエンザはソ連型と極めて抗原性が異なる(株による抗原性とは桁違いに異なる)ために互いのワクチンに互換性がなく、両方接種する必要があるわけです。
では診断についてはどうでしょうか?
現在インフルエンザの診断方法としてはイムノクロマト法を用いて抗原検出を行う迅速診断キットを用いるのが一般的です。綿棒のようなもので鼻もしくはのどの粘膜のぬぐい液をとる方法ですね。経験された方もいらっしゃると思います。本当はウィルス培養かPCRを行いウィルスを特定すべきなのですが、膨大な手間と時間がかかるため迅速診断キットの判定でとどめているのが実情です。従来の季節型インフルエンザの場合、PCRなどに比較して85%以上の診断率があります。そこそこ信頼のおける検査と言えます。新型インフルエンザもH1N1であるためAソ連型として反応する事を期待して従来のキットを使用しています。本当は新型インフルエンザのパンデミックウィルスにも対応したキットを使用できれば良いのですがまだ出来ていません。パンデミックウィルスに対する診断率は日本で最初に関西で高校生などに流行した時は50%程度、世界的には諸説ありますがもっとも高い報告で70%、低い報告では僅か10%というものまであります。迅速診断キットによる測定は重要ですが、それで陰性であってもインフルエンザの可能性は否定出来ないため、臨床症状を含めた総合的な診断が重要と考えます。
また新型インフルエンザは他の恐ろしさも持っています。早期の重症化です。
季節型インフルエンザでも乳幼児や高齢者を中心に重症化して死に至る例はある程度あります。それに比べて新型インフルエンザは重症化して死亡する例が成人年代でも高齢者と全く変わりない事、発症から死亡までの期間が平均5.6日(入院からは3日)と極めて短い事が特徴です。これはスペイン風邪の流行の記述を彷彿させます。ちょっと気になります。その観点からも新型インフルエンザの予防接種による重症化の予防は重要と考えます。予防接種による個人の感染予防だけでなく、社会全体の予防接種率が高まる事による相乗的抑止効果を考えると優先者だけではなく一般の人たちにも一刻も早いワクチン接種が望まれます。
新型インフルエンザで死亡した人たちの特徴ですが、死亡者の30%は基礎疾患として気管支喘息をもっており、他の呼吸器疾患も含めると41%に達します。これは季節型インフルエンザと比べても高率であり、喘息の治療中の方や以前喘息を持っていた方は積極的な予防接種やインフルエンザが疑われた時の早めの受診が重要です。
個人レベルの感染予防には、前述した手洗いやマスク着用の励行、咳エチケットを守る、無用に人混みに行かないなどが重要です。しかし、個人レベルの感染予防には限界があります。そこでもう一つ重要なのは社会的感染予防です。
2009年5月、神戸の高校に端を発した新型インフルエンザの集団感染は瞬く間に関西全域に拡大の様相を呈していました。そのケースでは発症地域の学校を積極的に休校とする事で比較的小規模の感染の蔓延にとどめることに成功しています。同様のケースはスペイン風邪の時にも見られました。1918年9月にアメリカのフィラデルフィアでスペイン風邪が流行、市民の感染率は数日間で10%に達しました。10月に入りセントルイスでスペイン風邪の集団流行の兆しが見られると、10月5日、市長の決断で学校の閉鎖、集会中止などが行われ市民の感染率は2%を上限に直ちに低下しました。
この例からも判るように、感染予防には社会的な側面が重要です。行政の決定事項を守る事はもとより、それ以前の問題として常識の範囲内で各人がやれることもあります。例えば、高熱が出たらなるべく早めに医療機関を受診し医師の診断を受ける事、その間マスクなどをしてウィルスを含んだ飛沫を咳やくしゃみと一緒にまき散らすリスクを減らす事、インフルエンザと診断された場合には安静期間、休業期間を順守する事が重要です。私個人の考えでは、インフルエンザと診断されてから5日間休むのが理想と考えます。よく仕事があるから休めないという人がいます。事情は痛いほど判ります。しかし、例えばインフルエンザの高熱をおして出社し、他の社員に感染のリスクを負わせる人は周りにはどう映るでしょうか?そして彼が商談の場に現れたら取引先はどう思うでしょうか?考えてみてください。
あとインフルエンザではなくても風邪は感染します。他の病原体によるものでも感染力はインフルエンザに比べて低めでも感染は成立します。医師の診断の結果インフルエンザではなくても安心せず、他者、特に家族への感染には配慮してくださいね。
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