「わしが若い頃は世の中に花粉症なんか無かった。」
 この様な話を60歳以上の方からお聞きする事があるかと思います。それでは、いつ頃から花粉症は存在したのでしょうか?

 我が国で最初に花粉症が医学的に報告されたのは1960年以降ですが、当初はブタクサなどをアレルゲンとする花粉症が主流でした。1970年代に入ってスギによる花粉症が増加し、1976年の全国的なスギ花粉の大量飛散を契機に大規模な調査が行われる様になりました。それと並行して社会的な認知度も高まり現在に至ります。
 しかし、花粉症と思われる症状の報告は洋の東西を問わず遥かな昔から存在します。紀元前500年頃の医聖ヒポクラテスの著書にも「季節と風、体質による風土病。転地療法が有効」という概念の病気の記載がありますが、これは花粉症を含むアレルギー性疾患を彷彿とさせます。

 近代医学では、16世紀にイタリアで報告された薔薇熱(rose fever)や1819年に英国で報告された枯草熱(hay fever)が有名です。枯草熱とは馬屋などにある干し草で誘発される鼻炎などの症状と報告されています。現在も英語圏では花粉症については正式病名であるpollinosisという言葉よりhay feverの方が良く使われていたりします。
「枯草熱って、うちは馬を飼っていませんが干し草によるアレルギーなんですか?」などという誤解を患者さんされて説明に窮している医師の姿が目に浮かびます。

 花粉症の原因となるアレルゲンは地域によって異なり、世界的に見るとアメリカ合衆国ではブタクサ、カナダではカバノキ、イギリス・スペインなどのヨーロッパ諸国ではイネ科の植物、北欧ではシラカバなどのカバノキ科の花粉によるものが多い様です。
我が国でも沖縄県と札幌以北の北海道はスギが生息していないためスギ花粉症の人にとってはパラダイスと言えます。ただし長年住んでいると他の花粉にアレルギーを生じる様になるため花粉症の人口比率は他の地方と大差ない様ですが。
まあ世界を見渡してもスギが広範囲に生息しているのは日本と中国の一部のみであるため、中国以外はどこに行ってもパラダイスなのですが・・・。しかし、スギ花粉症の人の70%は全世界的に生息しているヒノキによる花粉症を併せ持っていると言われており、スギが無いからと言っても安心は出来ません。

 また、世界的にも花粉症は先進工業諸国で比率が高い傾向にあると言われています。原因については大気汚染の影響や衛生仮説(寄生虫などが少なくなったため攻撃目標を失ったIgEが花粉を攻撃するようになり花粉症が増加した。)、食の変化など諸説ありますが、詳細は判っていません。個人的には、今後急速に発展を遂げつつある中国においてスギ花粉症が我が国の様に増加傾向を示すのか興味のあるところです。

花粉症の治療の話をします。

花粉症は治るでしょうか?それとも一度花粉症になると一生治らないのでしょうか?

実は一度アレルギー感作されるともとに戻らないため、ごく一部の例外を除いて花粉症は治りません。特にスギ花粉症などの重い症状を引き起こすものについてはほぼ治る事はありません。しかし、症状が出ないもしくは極めて軽くする事は可能です。花粉症で悩まなくて済むようになれば治ったも同然ではないでしょうか?その観点から治療の話をして行きます。

 花粉症の症状軽減の第一歩は花粉の暴露量を少なくする事です。花粉が付着しにくいツルツルした生地の服装を心掛け、帰宅時にはコートに付いた花粉を払ってから入室し、居住空間に花粉を持ち込まない様にしましょう。室内も可能ならフローリングとし、小まめに掃除をしましょう。

 外出時の体の局所的ガードも重要です。アレルギー性鼻炎、アレルギー性気管支炎がある人はマスクをしてください。肌のかゆみがある人はアレルギー性皮膚炎を防ぐためにも首や胸周りを大きく露出した服装は避けましょう。
目のかゆみなどのアレルギー性結膜炎がある人は眼鏡をする事が効果的です。眼鏡はなるべく大き目のものが良いですが、「花粉症ゴーグル」のような派手なものでなくても大丈夫です。
特にコンタクトレンズをしている人は花粉症の時期は眼鏡に変える事をお勧めします。
コンタクト使用者の花粉症の症状の半分はコンタクトレンズによる刺激によると言われています。花粉の接触による目のかゆみを10とするとコンタクトレンズ使用者はレンズの刺激でさらに10症状が悪化し、20のかゆみとなります。
コンタクトを眼鏡に変えるとレンズによる刺激が無くなり、また眼鏡による物理的防御で花粉の接触によるかゆみは10から5に半減します。これだけでも大きな違いとなりますが、点眼薬による対症療法を行う上でもコンタクトレンズは不利になります。

現在の抗アレルギー薬の点眼薬は含有する防腐剤による角膜障害の発生を回避するためにハード、ソフトを問わずに点眼後30分以内のコンタクトレンズの装着を禁止しています。そのため現実的には点眼機会が一日2回となる上にかゆみがひどい時に自由に点眼が出来なくなる等、治療の選択肢が狭まります。コンタクトレンズの上からも点せる防腐剤無添加の一回使い捨てタイプの点眼薬もありますがあまり普及はしていないのが実情です。

次に花粉症などのアレルギーを悪化させる要因に挙げられるのが「ストレス」です。

ストレスは東洋医学的には、肝に負担をかけ、気滞(生命エネルギーが体をスムーズに流れなくなる事)を生じます。気滞は水毒(体の水分バランスの異常)を引き起こし、鼻水などの症状を悪化させると考えられています。
仕事や近所づきあいなど人生には様々なストレスがつきものです。
ただし、ストレスを感じやすい人と比較的ストレスに強い人はいます。
大まかに言うとストレスを感じやすい人ほどアレルギーの症状がひどくなる傾向にある様です。
ですから花粉症の軽減のために「さっそく明日からストレスの掛からない生き方をしましょう・・・。」となるのですが、いきなり言われても難しいですよね。
なぜならストレスは個人の持って生まれた性格によるところが大きくなかなか変える事が出来ません。
しかし、性格は変えられなくとも「習慣」は変える事が可能です。先ずは仕事等の必要最低限のものを除いては自分の心にノルマを課さない事が重要です。
例えば「明日は燃えるゴミの日だから朝7時に忘れずにゴミを出さなきゃ」と考えながら眠るなどが良い例だと思だいます。
「燃えるゴミなんて週2~3回回収に来る訳だから一回位出し忘れても問題ないさ。」こう割り切って考えられれば、それだけでもストレスはだいぶ溜まりにくくなります。
 他にもストレスを軽減できる自分なりの方法を見つけておく事も重要です。そのキーワードは「非日常空間」です。
例えば女性ならエステ、男性なら隠れ家的な喫茶店などでしょうか。
気分転換に加えてコーヒーのカフェインが花粉症の症状を軽減してくれます。
ただし、砂糖、ミルク、お菓子などは花粉症を悪化させます。
やはりここは違いの分かる大人のブラックコーヒーと行きましょう。

 あとリラックスの方法としてはアロマセラピーも有効です。
元来我が国には「香道」という文化が存在します。
刺激の少ない繊細な香りは鼻粘膜に負担をかけずに高いリラックス効果を生み、花粉症の軽減に最適です。
最近はアロマキャンドルなども良いものが簡単に手に入りますので自宅でも出来ます。皆様もぜひ取り入れてみてくださいね。
また余談になりますが、我が愛するジュビロ磐田のホームタウン磐田市に「香りの博物館」というものがあり、いろいろな体験が出来ます。
磐田にお寄りの際は訪ねてみても良いでしょう。
 ストレスの関連で言えば運動不足も花粉症を悪化させます。
花粉症の人はどうしても花粉症の時期には外出を控えがちになる傾向があります。
犬を飼っている方ならば愛犬を散歩させないとストレスが溜まり、状況によっては体調まで悪化するのを経験されていると思います。
これは実は人間にも当てはまります。
花粉が飛んでいる中で屋外のウォーキングなどは困難としても、スポーツクラブでの運動や屋内で出来る体操、ヨガなど軽い運動を心掛けましょう。
テレビゲーム好きの方なら任天堂のWii Fitなども良いかも知れないですね。

次に食事の話をします。食生活も重要な要素です。

現在アレルギーに対する食事療法というと、アレルゲンを詳しく調べて陽性のものを除去する治療にばかりに目が行きがちです。
もちろんこれらの事も十分配慮する必要は有りますし、当クリニックでも採血によるアレルゲン検査や除去食相談に力を入れています。
しかし、これだけでは不十分な要素があります。
それは「アレルギー症状が出にくい食事を心掛ける」という事です。
特に漢方薬で治療を行っている場合は食生活によって効果が大きく違ってきます。

 食事の注意点を詳細に書くと膨大なものになるため、ここでは最低限皆様に守って頂きたいもののみ列記します。
① 白砂糖、余分な脂分を含むものを摂らない。
 特にスナック菓子、チョコレート、ケーキは悪影響が大きい。
 おやつで食べるなら黒糖、ハチミツを使ったものを。
② 揚げ物、脂肪の多い肉はなるべく食べない。
 特にハンバーガーやフライドチキンなどのジャンクフード系は避ける。
③ 炭酸飲料、アルコールを控える。
 特にコーラは避けたい。アルコールは飲まないにこした事は無いが、どうしてもという場合は熱燗や焼酎のお湯割りなど温かいお酒が望ましい。ビールは冷えていて炭酸が入っているため残念ながら悪影響が大きい。
④ もち米、タケノコも控えめに。
⑤ 刺激物はなるべく避ける。
 トウガラシや辛口カレーを食べると一時的には鼻がスッとするが後から鼻閉などが悪化し、トータルでみるとマイナスになる。
⑥ また、症状がひどい時に限っては以下のものも控える事が望ましい。
 卵、牛乳、乳製品、生魚
 (牛乳の代わりに豆乳を飲みたい。魚は加熱すると良い。トリのささみ以外の肉類も可能なら避けられればベスト。)

以上の様な事を実行するだけでも花粉症の症状はだいぶ軽減出来ます。
 それでも治まらない症状の部分に必要最低限の医学的治療を組み合わせる。これが重要です。

 当、代官山パークサイドクリニックでは保険適応の漢方薬を中心に最低限の一般薬を加えた治療を個々の状況に合わせてご提案いたします。患者の皆様にあわせたオーダーメード治療です。是非お気軽にご相談ください。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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