花粉症の治療:鼻水(鼻汁)
前回のコラム(花粉症の話2012①"くしゃみ")に引き続き花粉症の話です。今回は”鼻水(鼻汁)”です。
鼻水(鼻汁)
鼻水もくしゃみと同様に花粉症の三大症状と呼ばれ、アレルギー性鼻炎の症状の一つです。
花粉症でお悩みの方の実に90%の方に症状がみられます。現在我が国では20%程度の人が花粉症であると言われていることからも、その多さが分かります。
ティッシュを片時も離せない苦しさは経験者にしかわかりません。
鼻がむずむずし出したと感じたら、なるべく早くに医療機関にかかることをお勧め致します。
当クリニックでは花粉症による鼻水の治療は各人の症状や身体所見に応じて選択します。
また、“眠くならずに即効性がある”漢方薬での治療に力をいれており、状況によっては複数の治療を組み合わせ、最適な治療を行います。
まずは花粉症の鼻水に対しての漢方薬治療を詳しく紹介したいと思います。
漢方薬による鼻水の治療
漢方薬は飲む人の【証(ショウ-"体質"を意味します)】によって異なる薬を使いますので、同じ症状であっても違う漢方薬が処方される場合があります。
A.
寒証(カンショウ)の人:透明の鼻水(ビジュウ)がでる。普段冷え症があり、体格的にはやせ形の人に多い。
処方の基本は19番・小青竜湯(ショウセイリュウトウ)です。より寒が強い人には127番・麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシトウ)を使う事もあります。127番・麻黄附子細辛湯には通常の顆粒の他にカプセルタイプの漢方薬もあります。
なお、胃腸が弱い、心疾患・重度高血圧・高度の前立腺肥大などがある方の場合は127番・麻黄附子細辛湯のような麻黄を含む漢方を避けることが望ましいです。麻黄の含まれていない漢方薬としては119番・苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)があります。
また、19番・小青竜湯、119番・苓甘姜味辛夏仁湯は『乾姜(カンキョウ)+甘草(カンゾウ)』の組み合わせを持つ漢方薬で、体を温める作用があります。その他、鼻炎を直接治す漢方ではなくても、乾姜(カンキョウ)+甘草(カンゾウ)の組み合わせを持ち、間接的に花粉症の鼻水に効果を持つ漢方薬は以下のように多数あります。
- 11番・柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
- 14番・半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
- 32番・人参湯(ニンジントウ)
- 82番・桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)
- 118番・苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ)
- 120番・防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
- 23番・当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
- 38番・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュウショウトウ)
- 48番・十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)- 体力が著しく低下している場合
また、19番・小青竜湯に17番・五苓散(ゴレイサン)や81番・二陳湯(ニチントウ)を併用する事により水様の鼻汁に対して効果を高める事が可能です。
B.
熱証(ネッショウ)の人:粘性で黄色っぽい鼻汁が出る。冷えをあまり感じず、ガッチリした体格の人に多い。
熱証の基本処方は1番・葛根湯(カッコントウ)ですが、上記寒証の人に処方する漢方薬も良く効きます。
胃腸が弱い方は、麻黄が含まれていない漢方薬として、45番・荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)、119番・苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)を使います。
熱証の人は鼻閉傾向の強い人が多いため、この場合は2番・葛根湯加川きゅう辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)、104番・辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)なども使用します。
上記処方でも症状が改善しない場合は、大青竜湯(ダイセイリュウトウ)を使用します。これはエキス剤の漢方薬としては存在しないため、煮出して飲む『煎じ薬(せんじぐすり)』になります。
大青竜湯をエキス剤の漢方薬で代用する場合は複数の漢方薬を組み合わせて処方します。(27番・麻黄湯(マオウトウ)+28番・越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)など)
上記の様に、ざっと書いただけでも花粉症に効く漢方薬はこれだけあります。少しわかりにくいですね。
登場した漢方薬の中には、薬局などで市販されているものもありますが、基本的に市販の物は含まれている成分も少なく、効き目が弱いものが多いと思われますし、なにより漢方薬はそれぞれの体質【証】にあったものを服用するのが最も効果的です。
時間に余裕がある方、しっかりと症状を抑えたい方は、是非とも医療機関を受診し証にあった漢方薬を服用してください。(医療機関によっては漢方薬を処方していないところもありますのでご注意ください)
イメージと違い即効性と強い効き目が期待できる漢方薬、正しく服用すれば極めて効果的に症状を抑えることが可能です!
漢方薬以外の鼻水の治療
漢方薬には即効性と効き目の強さがありますが、それだけで全ての症状を抑えることはできないかもしれません。その場合は、一般的な西洋薬と組み合わせることでより高い治療効果を発揮することができます。
事実、私は花粉症治療でご来院される患者さんの殆どに、漢方薬と西洋薬を併せて処方し、治療をおこないます。結果、昨年も多くの方々から症状の改善報告を聞かせていただきました。
漢方薬治療に組み合わせる内服薬や点鼻薬、注射薬には以下のようなものがあります。
内服薬
- 抗ヒスタミン剤:西洋医学的治療の第一選択内服薬です。確実に効果が期待できますが、眠くなるなどの副作用(インペアードパフォーマンス:作業効率の低下)の問題があります。
- 抗ヒスタミン剤以外の抗アレルギー薬:眠くなるなどの副作用が比較的少ないが、鼻水に対しては比較的に効果が少なく、また効果が最大限に達するまで時間がかかることが多いとされています。
- 内服ステロイド剤:確実で強い効果のある内服薬。即効性もあります。しかし身体への負担が比較的大きいため、患者さんの状態をみて慎重に使用する必要があります。(当クリニックでは基本的に処方しません。)
点鼻薬
- 点鼻の抗アレルギー薬:一日4回など頻回に使用可能で即効性がある点が内服の抗アレルギー薬に比べて優れています。しかし、鼻刺激感や鼻乾燥感などの局所の副作用が出る場合があります。
- 点鼻のステロイド薬:一日1~2回投与と簡便で、持続性があるが即効性にはやや欠けるものが多いとされます。定期的に使用する事で効果が高まり、ステロイドといっても体内に殆ど吸収されないため副作用は少ない安全な治療法です。
- 点鼻の血管収縮薬:市販の点鼻薬などにも配合されています。即効性がありなおかつ副作用も少ないのですが、頻用すると長期的な鼻閉を生じる原因となる事があるため、十分に注意が必要です。
その他
- ノイロトロピン注射:化学合成によらない注射薬です。副作用が少なく、依存性も全くありません。定期的に接種することでアレルギー症状を抑えることに一定の効果を期待することができます。
- プラセンタ注射:直接アレルギーを抑える作用に加え、粘膜や皮膚の状態を良くする間接的作用も期待できます。おすすめの注射治療ですが、花粉症に対しては保険適応にならず、自費治療となり、費用がかさみます。
- デポステロイド注射:一回注射をすると1か月以上効果が持続するステロイド注射。効果は大きいが、身体の負担も大きいことが特徴です。特に副作用が出た場合は薬が体内に無くなるのを待つ以外方法がないため、慎重に使用する必要がります。当クリニックでは原則として使用しておりません。
- (特異的)減感作療法:注射などにより数年をかけて特定の物質に対してのアレルギー反応の消失を図る治療です。(当院では行っておりません。)
- 非特異的減感作療法:ヒスタグロビンという注射を1クール行う事によって、3~4か月間全てのアレルゲンに対するアレルギー反応の大幅低下を図る治療法です。副作用が極めて少ないことが特徴ですが、効果には個人差があります。1クールは原則6回で週2回程度の頻度で注射を行います。通院困難などの場合は1クール3回とする場合もございます。
※ヒスタグロビン注射に関してはこちらページもご参考ください。
鼻水に対しても、くしゃみの治療と同様に、それぞれの体質【証】や状況に合わせた最適な治療を行います。
今シーズンの花粉症対策をまだお済みでない方は是非ご相談ください。
次回は症状の中でも最も厄介な鼻づまりについてのコラムです。
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