抗ヒスタミン薬の話
花粉症などのアレルギー性疾患の病態把握にアレルゲン検査(IgE-RAST)が有効である事は前回のコラム「花粉症の検査の話①IgE・アレルゲン検査」の通りです。しかしアレルゲン検査は、血液中の抗原特異IgE抗体量の測定すなわち生体が特定のアレルゲンに感作しているかどうかの指標です。そのため実際にそのアレルゲンがアレルギー症状の原因になっているかの特定は出来ません。あくまでも原因になり得るアレルゲンのリストアップにしか過ぎないのです。アレルゲンを特定するためには実際にアレルゲンを摂取して反応を見る“負荷試験(チャレンジテスト)”が必要になりますが、検査の手間、苦痛に加えて重度のアレルギー症状(喘息発作、アナフィラキシーなど)を誘発する可能性があるなど危険を伴います。特に食餌性アレルゲンに対する負荷試験は呼吸困難などの致命的リスクを生じる可能性が少なくないため実施には困難が付きまといます。ではリスクなく行えるアレルゲン特定の検査はないのでしょうか?
血液検査で行うヒスタミン遊離試験(HRT)という検査があります。これにより採血でアレルゲンの特定を行う事が出来ます。
HRTの原理は、採取した血液検体(末梢血容器使用)の好塩基球を抽出し、これにアレルゲンを加える事によって好塩基球上の隣り合ったIgEレセプターに結合している抗原(アレルゲン)特異IgE抗体を架橋させ、遊離されるヒスタミン量を測定するという方法で行われます。つまり、負荷試験を生体ではなく採取した白血球に対して行うという方法です。これを異なる抗原(アレルゲン)濃度で行い、末梢血中好塩基球数の影響を除くためヒスタミン遊離率を%で算出、20%以上を陽性とする。濃度別のヒスタミン遊離率をグラフ化し波形により判断します。遊離率は以下の計算式で算出します。
HRTはアレルギー症状の原因特定に於いて負荷試験には若干精度は劣るものの、IgE-RASTによるアレルゲン検査に比べるとはるかに高い精度で症状に関与するアレルゲンの特定が可能です。またHRTは血液検査ですので、生命のリスクが無く行えるのも利点です。もちろん負荷試験前の予備検査としてHRTを施行する事も可能です。(これにより負荷試験によるアクシデントの可能性を大幅に減らす事が可能になります。)
HRTは体質の変化に伴うアレルゲンの変化の状況把握にも比較的早期から対応します。(IgE-RASTではアレルゲンに生体が反応しなくなってからもある程度の期間値が高い状態が続きます)。花粉症における抗原の反応を2~3年毎に測って対策を講じたり、小児の食餌性アレルゲンの年齢による変化をみて除去食を見直したりするのにもHRTはIgE-RASTより遥かに有効です。ヒスタグロビン注射※1による非特異的減感作療法の効果判定や継続治療の方針決定にもHRTは最適の検査方法です。
※1 ヒスタグロビン注射に関してはこちらのコラムをご参考ください。
HRTは通常の採血による検体で測定可能ですが、好塩基球から遊離されるヒスタミンを検査するため、好塩基球の状態により検査結果が若干変化する可能性があります。そのため厳密にHRTを測定する場合は、1ヶ月以内のステロイドの内服・注射が無い事を確認する必要があります。ステロイドの外用(塗り薬)、吸入薬の使用は問題ありません。抗ヒスタミン剤などのアレルギーに対する薬は最低でも3日間、可能なら1週間中止して検査をする事が望まれます。漢方薬の内服は問題ありません。
HRTで実施できる項目は下記となります。検査は5項目からとなります。
食物性 | 卵白、牛乳、小麦、米、大豆 |
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吸入性 | ヤケヒョウヒダニ、ニホンスギ、ガモガヤ、ブタクサ、ネコ上皮 |
魚・甲殻類 | カニ、エビ、マグロ、サケ、サバ |
肉類 | 豚肉、牛肉、鶏肉 |
鶏卵 | オバルブミン、オボムコイド、リゾチーム、卵黄 |
穀物類 | ゴマ、ソバ、ピーナッツ、ゼラチン |
吸入抗原 | ハウスダスト、コナヒョウヒダニ、イヌ上皮、イヌ皮屑、カンジダ、アルテルナリア、ヨモギ、ヒノキ |
その他 | ヒト汗 |
初回検査ではHRTと対応するIgE-RAST、白血球数と分画(好酸球を含む)を一般項目と一緒に測定するのが一般的です。その場合、HRTおよびIgE-RASTはおのおの5項目までであれば保険適応で検査が可能です。
HRTでのみ検査可能なものとしては、 “ヒト汗抗原”があります。全身性のアトピー性皮膚炎などの方では陽性率が高いと言われています。アトピー性皮膚炎などがあり、汗で掻痒感が悪化する方などは一度検査をされる事をお勧めします。
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