男性ホルモン注射の副作用の話をします。

男性ホルモン補充療法は、基本的にはとても安全な治療法です。しかし、注意すべき点はいくつか存在します。

先ず注射の副作用としては、『肝機能障害、さ声、多毛、月経異常、男性化現象、過敏症、ざそう、脱毛、悪心、嘔吐など』となっています。このうち、月経異常は性同一性障害などで女性に投与した場合のみに生じるものですし、体毛の多毛化、頭皮の脱毛傾向、男性化は副作用というよりある意味男性ホルモンの作用そのものでもあります。悪心、嘔吐も女性ホルモンの内服薬などに比べて軽度の事が多く、実際当クリニックでも悪心、嘔吐の副作用で注射を中止した例はありません。

また副作用ではありませんが、男性ホルモン補充療法で気をつけなければいけない点がいくつかあります。

ひとつは前立腺疾患を持っている患者さんには慎重に投与する必要があります。特に前立腺がんは男性ホルモン投与によって腫瘍を悪化させる場合があるので細心の注意を要します。前立腺がん治療中の方へはホルモン補充は行いませんし、以前前立腺がんの治療をした事がある方へのホルモン補充も慎重に行う必要があります。男性ホルモン補充で前立腺がんの発生が増加したという報告はありませんが、ごく早期の前立腺がんの方にホルモン注射をしないために、ホルモン療法前に前立腺の腫瘍マーカーであるPSAを測定しています。通常PSAは4.0以下が正常とされていますが、ホルモン補充療法の前検査ではさらに万全を喫して2.0以下の場合のみ行っています。

前立腺肥大症で治療を行っている方にもホルモン補充療法は影響を与える可能性があります。ただし、男性ホルモン投与により悪化する可能性とLOH症候群の改善に伴い症状が良くなる面があります。私の経験では、前立腺肥大症状が改善する方が圧倒的に多いと思われます。

多血症という赤血球の増加をきたす場合もまれに認められます。

これらの問題点はいずれも血液検査を行う事で発見が可能です。そのためホルモン補充療法を行う場合は、治療開始前の血液検査はもちろんの事、経過中も2~3ヶ月に一度は採血を行います。上記の副作用のチェックに加えて、成人病の発生リスク管理や治療効果の判定なども適宜行います。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)についても注意が必要です。男性ホルモン補充療法は睡眠時無呼吸症候群を悪化させる可能性があるとの報告があります。そのため、状況によってはホルモン補充療法開始時ないし経過中に睡眠時無呼吸の簡易検査を行う場合があります。

男性更年期障害については、
当クリニック、LOH症候群・男性更年期外来のページよりご覧ください。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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