男性更年期障害もしくはLOH症候群に対する漢方薬による治療は、『証(ショウ)』という患者さん固有の体質によって処方が異なるという話を前回書きました。そのため、漢方薬の選択をマニュアル化するのは困難ですが、ここでは一応の目安という形で私が処方する際に基準としているものに関して述べさせて頂きます。

先ずは、患者さんの主訴により概ねの処方の目安をたてます。

①『昔は元気だったのに、急に老けこんだ感じで元気がなくなった。』という場合

LOH症候群に多いケースですが、短期間に急に肉体的にも精神的にも老け込んだように感じられる場合は、『補腎剤(ほじんざい)』を中心に処方します。補腎剤とは、人間が生まれつき身体内にもっている生命エネルギーである『先天の気』の働きを良くしてくれるタイプの漢方薬の総称です。補腎剤は保険適応になるエキス剤の漢方薬から選択する場合は下記の処方を使います。

『六味丸(ろくみがん)』手足の火照りなど、肝腎の陰虚(水血の不足状態)をきたしている場合に使いやすい処方。
『八味地黄丸
(はちみじおうがん)』
『腎陽虚』の所見である『冷え』の症状が強い人に主に使う処方。
『牛車腎気丸
(ごしゃじんきがん)』
八味地黄丸の証より、冷えや水の異常(下肢のむくみや肌の乾燥)が強い人に主に使う処方。

②『老け込んだ感覚は少ないのに、肉体的疲れがいつまでもとれない』という場合

上記のケースにくらべて、老化の要素が少ない肉体的疲労が目立つ男性更年期障害の場合。

『年齢のせいかな?』と言いながらも、年齢に伴う内科的な病気を心配する様なタイプ、もしくは、栄養ドリンクを飲みたくなる様な肉体的疲労の場合は『補気剤(ほきざい)』を中心に処方します。『補気剤』とは、人間が生きていく為に食物から得る生命エネルギーである『後天の気』の取り込みを促進し、気の働きを増強するタイプの漢方薬の総称です。同じくエキス剤の漢方薬では、下記の処方から選択します。

『柴胡加竜骨牡蛎湯
(さいこかりゅうこつぼれいとう)』
生活習慣病をもっている様なややメタボな体型の人で、多忙・過労・ストレス過剰でイライラする症状が多い人に使いやすい処方です。イライラは自分が自覚するよりも妻や職場の同僚・部下など周りの人の方が把握している事も多い。高血圧や動脈硬化にたいしても効果を有します。うつ病に対しても証さえ合えば第一選択薬として使いたい処方です。
『桂枝加竜骨牡蛎湯
(けいしかりゅうこつぼれいとう)』
柴胡加竜骨牡蛎湯にくらべて、体力的にやや虚に傾いている人に使いやすい処方です。症状はイライラよりは『クヨクヨ』と悩む傾向にあります。
『抑肝散(よくかんさん)』自覚できる爆発的なイライラに効果的な処方です。常に服用しても良いですし、怒りや不眠時のみ頓服でも良い即効性のある漢方薬です。
『加味帰脾湯(かみきひとう)』自覚できるクヨクヨに効果的な処方です。クヨクヨ考え、不安で不眠傾向が出る人に効果的です。
『酸棗仁湯(さんそうにんとう)』加味帰脾湯の症状でさらに疲労が進み、睡眠・覚醒のリズムが狂った場合に処方する事があります。

上記は漢方薬を処方する場合のあくまでも目安であり、患者さんの状況や東洋医学的診察所見などにより、異なる処方となる事もあります。また、上記漢方薬は複数を組み合わせて処方する事もあります。
詳しくは診察の際にお尋ねください。

男性更年期障害については LOH症候群・男性更年期外来のページもご覧ください。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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