※このコラムは2013年11月25日に書いています。※
当、代官山パークサイドクリニックの外来でここ一週間位、下痢・嘔吐の患者さんが多数いらっしゃいました。原因は、細菌性腸炎、急性胃炎、胃腸型の風邪など様々ですが、中にはノロウィルスによると思われる胃腸炎の方が複数いらっしゃいます。

 ノロウィルスは、胃腸などの消化管に感染すると激烈な吐気、嘔吐、水様性の下痢を頻回に繰り返す病態を生じます。ノロウィルスは一年中感染を生じ得ますが、毎年年末ぐらいになると流行します。
ノロウィルスは主にヒトの唾液や嘔吐物、便などの排泄物からうつりますが、非常に高い感染力を持つことが知られています。
また、乾燥した排泄物からはノロウィルスが直接周囲に飛散し、そこからも感染を引き起こします。
数年前、ホテルの同一フロアで宿泊客の多くがノロウィルスに感染した原因は、ノロウィルス感染者の客の嘔吐物を清掃するのに用いたモップを、フロアの片隅に放置した事が原因とされています。消化管感染を生じる病原体のうち、この様な強い感染力を持つものは通常はありません。ノロウィルスの感染拡大する力は、他の病原体にくらべて別格に強いのです。

 ノロウィルスは通常、感染から24時間から48時間の潜伏期間をおいて発症します。発症すると数時間という短時間で大量の嘔吐や下痢を生じ、体を脱水状態にします。乳幼児やお年寄りなどは時には脱水によるショックを生じ、生命にかかわる事もあります。合併症を生じなければノロウィルス感染症自体は2~3日もすれば治癒しますが、短期間に症状が集中するため、この期間の治療を誤らない事が重要です。
治療の根本は脱水の補正です。脱水には水分を失う事によって生じる高調性脱水と、ナトリウム(Na)などの電解質を失う事によって生じる低調性脱水とがありますが、ノロウィルス感染症の場合は後者の低調性脱水の病態を呈します。
この場合の脱水の治療の基本は電解質の補充です。水分のみの補充ではありません。低調性脱水で水分のみを補充すると、血中の電解質濃度の低下を招き、却って病態の悪化を招くことがあります。水分補充の際は、電解質の補充を考慮すべきでしょう。具体的には、ポカリスエットやアクエリアスなどのイオン飲料を冷やさずに飲みます。
また、OS-1という保水液が薬局などで売られていますが、これは上記のイオン飲料の有効成分をさらに高めたもので、より効果的な脱水の補正が可能です。
アミノ酸が配合されたイオン飲料は、アミノ酸による腹痛や下痢などの腹部症状が悪化する場合があるため注意が必要です。病状が重い場合は、医療機関で点滴などにより脱水の治療を行う必要があります。また、併せて整腸剤などの止痢剤(下痢止め)や漢方薬などを併用する事によって、より効果的にノロウィルス感染の症状を緩和させる事が可能です。

 しかし、最も良いのはノロウィルスにかからない事です。ノロウィルスは前述の排泄物からの直接感染の他に、ノロウィルスに汚染された食品であるカキやホタテなどの二枚貝を生で食べる事によっても感染し得ます。特に輸入のパックのカキなどは生食のリスクが高いと言われています。加熱用となっている貝類は良く火を通すようにしましょう。
またノロウィルスの高い感染力は、排泄物からの間接的な感染も引き起こします。具体的には、人の手による媒介です。排泄物や唾などの飛沫に触れた手で食品を扱ったり、手で口などをぬぐう事による感染です。
前者については、調理や食品取扱業に従事する人などは充分注意を払う必要がありますが、一般家庭においても気を付ける必要があります。ノロウィルスに感染している方が家族の食事を作った場合、食品に触れて調理をすると家族中に感染を拡大させる恐れがあります。調理自体を避けるか、食品に触れない調理方法のものとするなどの工夫が必要でしょう。
また調理者が感染している時以外でも、ノロウィルスに汚染された可能性のある食材を扱う時などには注意が必要です。前述のカキやホタテなどの二枚貝や、背ワタにノロウィルスがいると言われているエビなどの調理過程で、手や調理器具を介して他の食材にウィルス混入を生じるのを防ぐことも心がけたいところです。

 おもしろいデータがあります。2009-2010年に当時新型インフルエンザと言われたAパンデミック型インフルエンザが流行した時、国を挙げて手洗いが励行されました。公共の場にはありとあらゆる所に手洗い用の消毒液が置かれたものです。
インフルエンザの予防には『うがい・マスク・手洗い』が有効とされています。インフルエンザ予防のための手洗いが徹底されたその年、思わぬ副産物としてノロウィルスの感染者が激減したのです。改めてノロウィルス感染の予防に手洗いが有効である事を認識させる出来事でした。

今年(2013-2014シーズン)はインフルエンザの流行に対して、今のところ世間はあまり危機感を感じていません。そのため、手洗いの回数は社会全体に少な目になっていると思われます。手洗い自体は基本的には個人の感染予防の行為です。しかし皆が手洗いを励行すると、社会全体の感染予防効果が高まるという側面があります。
大きな視点に立てば、ノロウィルスに感染しても命に係わる事はないであろうあなたの手を洗うという行為が、ノロウィルスの感染により生命の危機を生じるかもしれない乳幼児やお年寄りの命を守る事に繋がるかもしれないのです。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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