前回「漢方の話 はじめに・その1」に書いた話の続きです。
西洋医学の治療と漢方などの東洋医学の治療はその他にも様々な違いがあります。
一言でいえば、西洋医学的治療は「原因部位の特定と局所の治療」、東洋医学的治療は「体全体の流れを重視した総合的治療」となります。
この違いを外資系企業と日本の企業、MLB(メジャーリーグ)の球団と日本のプロ野球の球団などに置き換えて考えると理解しやすいと思います。体の調子が悪くなったり病気が見つかった時の事を、企業で実績が急激に低下した時、もしくは野球などのプロスポーツ球団で期待に反して優勝できなかった時などのケースを考えてみてください。
外資系企業やMLB球団の場合はしばしばこう考えます。「企業実績が低下しているのは開発部門のせいなのか?それとも営業部門のせいなのか?」「優勝できなかったのはエースピッチャーのせいなのか、四番バッターのせいなのか?」「どの選手をクビにして替りの選手を獲得しようか?」そしてそれを数字など目に見える形として解明しようとします。ちなみにアメリカ野球の記録の保存と解析のすごさは、マリナーズのイチロー選手の安打記録の際に感心した憶えがあります。
それに対して昔ながらの日本企業やプロ野球球団では、「わが社の実績が低下しているのは誰かのせいではない、みんなで仕事の効率化を図って頑張ろう。」「優勝できなかったのはエースのせいでも四番バッターのせいでもない。来シーズンは選手同士のコミュニケーションや戦術理解を良くして優勝しよう。」などと考えます
西洋医学は解剖学を中心に発達してきました。
西洋美術にもその傾向があり、ダヴィンチやミケランジェロは精密な人体構造スケッチを残していますし、18世紀の後半の医学の教科書には現在の医学書に勝るとも劣らない精度の心臓の構造図が載っており、エプシュタイン奇形という病気に関しての心臓内の血流動態の記述は心臓のエコーやカテーテル検査が可能となった現代でも通用するレベルにあります。死んで魂が離れた肉体を傷つける事をあまりタブー視しないキリスト教的思想も解剖学の発展に寄与したと思われますが、死後の遺体をとことん解明し、目に見えるものの情報を蓄積する。その上で人間が生きている状態を推測し、病気を医学的に解明して行く、これが西洋医学の手法です。
それに対して
東洋医学では、いくら死後の体を解明しても生きている状態の解明には繋がりにくい、病気は生きている人間を見ないと判らないと考えました。
そのため、患者さんの状態をともかく細かく観察します。そして、仮に体の中で起こっている事の仮説をたてます。その理論で矛盾なく説明が出来、治療が可能であれば、それを医学的真実とする。その様な経験的医療の蓄積によって成り立っているのが東洋医学です。
例えば「気・血・水」の概念の「?血」という「要らない血が体の一部に溜まる」所見は西洋医学的・解剖学的にはおかしな事になります。もちろん現在東洋医学の医師でも血液が流れなければ人間は5分と生きていけない事は判っています。
ここで言う「血」というのは、解剖学的な単なる血の流れだけではなく、血の運ぶエネルギーを含めた総合的なものであり、決して目に見える事象だけではないのです。「大切なものは目に見えない。」のかもしれません。
野球で言えば、ベンチで常に声を出して全力で味方を鼓舞する控え選手は個人成績にくらべてはるかに勝利に貢献しているものです。解剖学的・病理学的事実という個人打撃成績も重要ですが、それだけでは良い治療というチーム成績はおさめられないと私は思います。
西洋医学の治療と東洋医学の治療はどちらかだけを選ばねばならないという事はありません。先ほどの野球チームの強化で言えば、チーム内のコミュニケーションを高めるという東洋医学的手法とトレードで良い選手を獲得するという西洋医学的手法の併用は何ら問題無いと考えますし、チーム成績という治療効果は高まると思われます。
現在、数多くの薬を処方されて、毎回薬の内服の度に苦労されている方々もいらっしゃると思います。西洋医学では症状毎に違う薬が処方され、他の薬では兼ねる事は出来ません。例えば、冷えがあり、トイレが近くて、腰痛、頭痛、吐き気、下腹部の不快感などがあるとします。西洋医学だと5~6種類は薬が処方されます。漢方であればこれらの症状は「冷え」がベースにあると考え、とりあえず1種類の漢方で治そうと試みます。その上で治らない症状があれば、最低限の西洋薬を加えるというのが最も理想的な治療ではないかと私は考えます。
この様に薬の量を減らす事は他にも多くの利点があります。
先ずは薬代が安くなる事。これは個人的な薬局での支払いが少なくなるのに加えて、増大する医療費の抑制という社会的な利点もあります。現在我が国ではジェネリック医薬品の推奨と称して、開発メーカーの特許が切れた薬品を他のメーカーが生産した医薬品の使用を推奨しています。しかし、2割程度安い医薬品を無理に使用するよりも薬の数を2割減らす方が良いと考えるのは私だけでしょうか?医薬品を減らす事は副作用を減らす事にも繋がります。肝臓や腎臓の機能障害など重大な副作用を減らす事が出来るのも大きな利点ですが、薬によって蓄積される体への負担を軽減出来る事はもっと重要です。もちろん絶対に止めてはいけない薬もあり、それらは飲み続ける必要があります。しかし、体の負担が大きい薬は必要最小限にとどめる。これが重要です。
漢方薬は「生薬」という自然の植物などの成分から構成されています。化学合成薬である西洋薬に較べて副作用など体への負担は極めて少ないため、体質改善目的などの長期服用なども医師の管理下であれば安心して行う事が出来ます。
当、代官山パークサイドクリニックでは、ツムラ、クラシエ、オースギ、コタローなど、保険適応の漢方薬による治療を行っています。飲みやすい顆粒の漢方薬に加え、錠剤やカプセルでもご用意できる漢方薬もあります。どうぞお気軽にご相談ください。
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