「麻黄附子細辛湯」って、どんな漢方?

感冒の初期に用いられる漢方で即効性に優れています。
漢方、西洋薬全ての中で最も即効性がある感冒薬です。「世界最速の感冒薬」と言っても良いかもしれません。
さらに、冷え症にも効果があり、なんと感冒の予防にも効果的です。そんな、驚きの漢方のお話をします。

「麻黄附子細辛湯」の成分

麻黄:発汗解表、鎮咳効果、利水作用などを司る。冷えに対しても効果がある。
附子:腎を温め寒邪を駆逐する。強力な熱薬である。
細辛:身体を内部から強力に温める。
すべての成分が、基本は温める作用の生薬から構成されている漢方薬です。3つの似通った働きを持つ生薬のみというシンプルな漢方であるが故に即効性があるのです。

ツムラの漢方手帳によると、麻黄附子細辛湯の適応病名は以下となっています。

悪寒,微熱,全身倦怠,低血圧で頭痛,
めまいがあり四肢に疼痛冷感あるものの次の諸症:感冒,気管支炎

「麻黄附子細辛湯」の即効性について考える

先ず西洋薬の感冒薬についての話から始めます。

風邪もしくは感冒とは、西洋医学的な定義としては、ウィルスの感染による上気道(鼻腔や咽頭、気管)の炎症性疾患であり、咳や痰、鼻汁などの局所症状と、発熱、悪寒、頭痛、関節痛、倦怠感などの症状が出現する疾患とされています。
感冒の原因となるウィルスは多種多様に渡ります。
実は、感冒薬というカテゴリーの薬は、「原因である不特定多数のウィルス感染にあまねく直接効く薬」という様に厳密にとらえると、この世には一つも存在しません。
つまり、我々が「感冒薬」と呼んでいる薬は、感冒を治す薬ではなく、「感冒の原因は放置したまま、感冒の症状だけを緩和する薬」なのです。

では、なぜ感冒は治るのでしょうか?
実は、感冒を治すのは、自分の中の「自己治癒力」なのです。
感冒薬というものは、発熱や頭痛などの辛い症状を緩和する能力しかありませんが、感冒は通常数日で病状は治癒するため、その間さえ凌げば何とかなるという発想です。
これが、我々が手にする「感冒薬」の真実なのです。
まあ、感冒薬の実態がどうであれ、きちっと感冒が治るのならば何も問題はありません。
しかし、西洋薬の感冒薬を使った感冒治療には、いくつか問題があるのです。
先ず一つは、自己治癒力との関連です。
感冒では、ある程度進行すると高率に発熱をします。この発熱という現象は、感染したウィルスによるものではなく、自分の体の治癒力によるものです。自己治癒力を高め、ウィルスの活動性を制限し、駆逐していくために体は熱を上げるのです。
この発熱という現象は、ウィルスにとって厳しい環境ですが、我々の身体にとっても、悪寒や倦怠感、頭痛などを引き起こす厳しい環境です。つまり発熱というのは、自己治癒力が、ウィルスと我慢比べをしている状態とも言えます。
発熱は、適度であれば身体への負担も少ないのですが、行き過ぎた発熱は大きな苦痛を生みます。さらに40℃を超える発熱は、身体に大きなダメージを与えます。そのため、高熱やひどい頭痛を伴うものに関しては、薬により熱を下げる治療を行うのです。
しかし、発熱を抑えるという事は、身体の苦痛を減らしますが、同時にウィルスに対する自己治癒力も低下させます。つまり、感冒の治癒が遅れるのです。
つまり、西洋薬の感冒薬というものは、感冒の原因に直接効果が無いばかりか、治癒を遅らせる事にすらなるという側面を持っている薬なのです。

次に、感冒薬の命である「即効性」の問題もあります。
西洋薬の感冒薬というものは、実は即効性に乏しい薬なのです。
薬局に行った時などに見かける感冒薬や、医師が医療機関で処方する感冒薬(PLなどが有名です。)は、基本的には感冒がある程度進行してから始めて効果が発現します。
総合感冒薬PLにも含まれるサリチルアミドという成分は、感冒の時に感染・炎症が成立すると増産される「炎症誘発物質」に対して反応し、発熱を抑えたり、頭痛を軽減したりする効果を発揮します。
という事は、西洋の感冒薬は、感冒がある程度進行して炎症誘発物質が増加しないと効かないのです。

それに対して、漢方の感冒薬は、感冒のどんな初期からでも自己治癒力を活性化する事によって効果を発揮します。この時期に効果を発揮する感冒薬は漢方だけしかありません。
また、同じ漢方薬でも感冒に対する即効性に差があります。
漢方の即効性に関しては、大雑把に言うと、漢方を構成する生薬の数が少なければ少ない程、即効性があるのです。

感冒に効果のある漢方薬というと真っ先に思い浮かぶのが「葛根湯」ですが、葛根湯は7つの生薬から構成されています。

葛根湯のコラムはこちらをご覧ください

それに対して「麻黄附子細辛湯」は、3つの生薬であるので、即効性という面では葛根湯をはるかに凌ぐのです。

この麻黄附子細辛湯のもう一つの利点として、薬の副作用で眠くならないという点があります。
通常、感冒薬というと眠くなるもしくはボーっとするという副作用があります。その点、漢方の感冒薬は、原則として眠くなる副作用はありません。
その上、この麻黄附子細辛湯には、若干の覚醒効果すらあります。感冒薬なのに少々シャキッとするのです。仕事や勉強をしなくてはいけないのに感冒気味の時などには最適な感冒薬と言えるでしょう。
漢方薬は、飲む人の体質【証】によって違うものを処方するのがベストと言われています。

つまり、体質によって違う処方とする必要があるのです。
麻黄附子細辛湯については、本来は、冷え症を持っている人に対する漢方薬です。温める効果が大変に強い薬なのです。
その様な、陰とか虚の要素を持っている、冷えに困っている人の感冒時に飲むとたいへんよく効くのですが、それ以外の人でも十分に飲む価値があります。
だいたい、感冒というものは、冬などの寒い時にかかる傾向にあります。それも、雨にぬれるなどの体が冷えた時にかかりやすいと思います。そんな時には、普段は冷え等とは無縁なタイプの人でも体の中に冷えの要素がありますので、麻黄附子細辛湯が効くのです。

また、漢方薬は選択に迷ったら、弱めの体質の人が飲む漢方を選択すると間違いがないという事も言われています。
そういった点では、感冒の初期に麻黄附子細辛湯を第一選択として飲むのは、理にかなっているのです。

麻黄附子細辛湯は、感冒の初期にも効果的ですが、慢性的な冷え症を持つ人に関しては、長く飲む事によって、冷え症の改善も期待出来ます。
感冒にも冷え症にも、常備薬として手元に持っておきたい薬です。

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岡宮 裕 院長
1990年 杏林大学医学部 卒業 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局 横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院他 腎臓病・高血圧・糖尿病・血液内科やアレルギー疾患など内科全般の幅広い医療に従事。 代々木上原の吉田クリニックにおいてプラセンタ注射を使った胎盤療法等の様々な領域について研鑽を重ねる。 2009年 代官山パークサイドクリニック 開業 2011年 海外渡航前医療センター 開設

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